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投稿日: 2022.08.13 23:20
更新日: 2022.08.15 11:15

【中野信治のF1分析/第13戦&前半戦総括1】別次元で戦っていたハミルトン。大きすぎるレッドブルとフェラーリのアプローチの違い


F1 | 【中野信治のF1分析/第13戦&前半戦総括1】別次元で戦っていたハミルトン。大きすぎるレッドブルとフェラーリのアプローチの違い

 ラッセルはめちゃくちゃさりげないブロックをするドライバーです。言葉が正しいかどうか分かりませんが、いやらしいブロックをして常に相手にとって一番嫌な位置取りをしてきます。それも本当に強心臓じゃないとできないブロックです。クイックに動くような分かりやすいブロックと違い、いやらしいブロックは、表現が正しいかどうか分かりませんが“図々しいヤツ“しかできないんですよね(苦笑)。

 結局、ルクレールがラッセルをオーバーテイクしますけど、このあたりはタイヤの差も大きいかなと見ていて思いました。ルクレールのタイヤもこのときは元気で、ルクレールのうまさもありましたけど、クルマの状況の差もあってルクレールが見事なオーバーテイクを見せました。ですので、ミディアムタイヤでのクルマの動きに関してはメルセデスよりもフェラーリに分があるのかなと感じました。

 その頃には2スティント目でミディアムタイヤを装着したフェルスタッペンも4~5番手に順位を上げてきており、どんどんとタイムアップもしてきました。そして、そのフェルスタッペンと同じくらいペースが良かったのがハミルトンです。今回、あまりハミルトンは目立っていませんでしたけど、見ていてすごいなと思ったのがハミルトンのタイヤマネジメントです。決して走り始めは速くないんですけど、本当に周回を重ねるごとに周りとのタイヤの差がどんどんと生まれてきます。

 今年のメルセデスのクルマがシーズン前半にポーパシングなどで苦しんでるときに、今年18インチになって新しくなったタイヤの使い方も含め、ハミルトンは全然違うところでまったく別の戦い方をしていたんだなということが今回よく分かりました。今のハミルトンのタイヤの使い方は全然目立ってはいませんけど、他のドライバーよりも頭ひとつ抜けてうまいです。レース中盤から後半に向けてのタイヤの守り方、ペースの上げ方、そしてメルセデスの今のポテンシャルを考えるとハミルトンの戦い方のうまさは実はすごいことです。

 シーズン前半はただ苦しんでいただけではなく、今年の苦しい状況のなかで結果を出すためにはどういうタイヤの使い方をしなければならないということを、徹底して勉強してきていて、それを自分のものにしているということが今回のハンガリーGPで感じました。ただ単に不調で沈んでいたわけではなく、その間にやるべきことをハミルトンはきっちりとしていました。ラッセルの影に隠れて目立ちませんでしたけど、ハミルトンなりの戦い方をずっと模索しながらレースをしていたことが分かりました。

 ハンガリーGPのレース終盤でも、ラッセルとはタイヤのコンパウンドが当然違ったとはいえ、同じクルマを使うチームメイトをあっさりと追い抜いていったのは本当に印象的なシーンでした。あのシーンも結局、タイヤをうまく保たせて走っていたからこそで、それまでの2スティントでミディアムでもタイムを落とさずにプッシュできて、そのポジションだからこそユーズドのソフトに変えることもできたという頑張りもあります。

 そういったことも考えると今回のハミルトンはさすがのパフォーマンスで、僕のなかのドライバー・オブ・ザ・デーになります。本人も予選でDRSトラブルがなければ優勝争いに絡んでいたとコメントしていましたけど、その言葉もまんざらではありませんし、今回はラッセルの上に行っても不思議ではなかったと思います。ラッセルはポールポジションを獲得して目立っていましたけど、その影に隠れて、やはりハミルトンだなという王者の引き出しの多さ、奥の深さというのを見ました。

2022年F1第13戦ハンガリーGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)&ランド・ノリス(マクラーレン)
2022年F1第13戦ハンガリーGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)&ランド・ノリス(マクラーレン)

 レース終盤は気温が低かったり、少し雨がぱらついたりもして路面コンディションが変わったこともあり、そこにソフトを当て込めたことも大きかったです。ソフトが意外とうまく機能したというは、やはり気温と路面温度が下がってくれたということが大きかったと思います。そして、その真逆をしてしまったのはルクレールです。3スティント目にハードタイヤを選択して、その後、4スティント目にユーズドのソフトに代えました。ルクレールに関してはとにかく正攻法でスタートしながら、第1、第2スティントをミディアムで引っ張ることができなかったことが最大のミスだと思います。

 なぜフェラーリは真逆の戦略を採ってしまったのか。おそらくフェラーリは、金曜日の高い気温のなかで走っていたハードタイヤで、このタイヤなら長くいけるからピットストップは1回で行けるということを考えていたと思います。おそらく、そのことがあってのハード装着という判断だったと思います。

 机上の空論ではないですが、データだけ見ていると『このタイヤでもいけるはず』みたいなことが、あの段階では可能性はゼロではなかったのでしょう。それに加え、フェラーリは相手の動きに乗っかりすぎてしまいましたね。2回目のピットインのタイミングを、フェルスタッペンに合わせる必要はなかったと思います。勇気を持ってもっとミディアムで引っ張っていれば、違った絵が見えてきたと思います。フェラーリもソフトはユーズドしか持っておらず、金曜日の感じからソフトは保たないという思いも少しあったはずです。

 そういった真相は我々が知り得ない、いろいろな理由があっての判断だったと思うので、一概にフェラーリの戦略が200パーセント間違っていたわけではありません。ただ、そういったときのリスクといいますか、その戦いに慣れてるメルセデスとレッドブルだったら、もしかしたらそのあたりは違った判断を下していたかもしれません。

 僕はやはり戦っている現場にいる人間ですし、日本のレースですけど監督としてピットレーン側にもいた人間なので、臨機応変に戦略を変えていくことの難しさは分からなくはありません。ただ、やはりF1でチャンピオンのタイトルは、固定された堅い戦略だけでは獲ることができません。そのあたり、もっとブラッシュアップが必要だということはルクレールもレース後のインタビューで話していたので、そこがフェラーリの足りないところのひとつであることは間違いないですね。

【前半戦総括2『角田裕毅の成長と課題、引退ベッテルに見る理想の幕引き』へ続く】

<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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