更新日: 2022.09.01 17:47
【中野信治のF1分析/第14戦】スパの難コースで独走したフェルスタッペンの髙スキル。露呈されたフェラーリとメルセデスの特性
それでダウンフォースが少ない状態でクルマのセットアップをなんとか合わせていこうとしたけれども、結局はそのスパ向けのローダウンフォース仕様にセットアップを合わせ込めず、ダウンフォースが少ない分クルマとタイヤを路面に抑え込めないので、タイヤのパフォーマンスを引き出せずにデグラデーションが大きくなったのだと考えられます。
レッドブルと比較すると、今回のフェラーリはポーパシングが結構大きかったのが見て取れました。そのあたりからも、あれだけクルマが上下に動いてしまうということはダウンフォースが安定しないだけでなく、車高やサスペンションも含めてクルマの制御がうまくいってないということでもあります。クルマの足回り(サスペンション)を硬くした動きで、かつダウンフォースも少なめとなれば、フェラーリのこれまでの良さが失われて、もっとも弱い部分のスイートスポットに入ってしまった感じでした。
後半戦に向けてクルマを合わせ込んでいくなかで、ここまでアップデートを繰り返してきた結果としてはレッドブルに分があったということは今回、明かになりました。もともとのクルマの素性が、全開率の高くストレートが長いサーキットが有利だったレッドブルのマシンが合っているということもあると思いますが、今回はその差がさらに広がってしまいました。今回はフェラーリの良いところが打ち消されてしまって、前半戦で差があった部分、ともと持っていたフェラーリの弱点がまったくアップデートでカバーできてないということが明らかになった感じでした。
また、メルセデスも、もともとダウンフォースをつけ気味で走らないとグリップが得られずにタイムが出ない印象のクルマです。パワーユニット(PU)の弱い部分を、空力で稼ぐことのできないマシンだと思うので、スパでは予選一発のタイム出しが相当厳しいと思っていました。
そういった意味では同じメルセデスPUを搭載するウイリアムズはストレートが速いので、ドラッグが少なくてダウンフォースもかなり減らした状態で走行しています。それはクルマのもともとの素性の差です。ウイリアムズほどリヤウイングを寝かせるとそれなりのスピードでタイムも稼げます。そういった意味では、メルセデスはこういった高速サーキットにはクルマのフィロソフィーからしてまったく合っていません。昨年までなら強力なメルセデスPUでその面をカバーできていたのが、今年はそれができなくなっているということも今回のスパで顕著に出ました。
そのウイリアムズでは、今回はアレクサンダー・アルボンがフリー走行からかなりいい走りを見せていました。予選でも、アルボンの走りは本当に見ている側がヒヤヒヤするくらい攻めていましたね。本当に限界を超えるか超えないかという綱渡りのところでずっとマシンをコントロールしながら走っていました。あの走りは本当にすごいことで、アルボン自身がローダウンフォースのマシンが好きなのかは分かりませんが、『アルボンってこんなにすごいドライバーだったけ?』と思わせるくらい、すごくキレのある走りをしていました。あの走りを見ると、またトップチームのマシンに乗ったところを見て見たいなと思います。
決勝ではスタート後のターン5でルイス・ハミルトン(メルセデス)とフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)が接触する場面もありましたが、あの接触は明らかにハミルトンのミスです。ターン5はコーナーの特性上、2台横並びでは入っていけないコーナーで、ハミルトンはアロンソの左フロントが自分の右リヤの位置にあったことは分かっていたはずです。そこで譲ろうとするとアウト側に出るしかなく、すごく際どいライン取りでした。あれはハミルトンの判断ミスでレース後に本人も認めていましたが、あの場面ではアロンソは完全に何もできなかったです。
ハミルトン的には、スタートしてからレースが落ち着いてしまうとストレートで追い抜けないということが分かっているので、やはりスタート直後のオープニングラップ、1周目でひとつでも順位を上げたいという気持ちの方が勝ってしまい、若干冷静さを欠いた動きをしてしまいました。それはやはりストレートが遅いというマシン特性からくるプレッシャーみたいなものもあったと思います。
その一方で、やはりレースでのメルセデスは強いなとも感じました。ジョージ・ラッセルが3位になれるかなれないかみたい争いをしていました(最終的には4位フィニッシュ)けど、あのレースペースは一体何なのでしょう。予選では厳しいですが、レースになるとトップグループと変わらないペースで走れてしまうので、そう考えるとアロンソとの接触でリタイアとなってしまったハミルトンのレースも見てみたかったですね。
接触がなければ、ハミルトンもラッセルと同じくらいのペースで走ることはできると思うので、もしかしたら表彰台争いができていたかもしれません。ラッセルもレース終盤はもう少しで3位に追いつけるか追いつけないかというところまで来ていました。メルセデスはハードタイヤにマシンが合っているという面もあるとは思いますけど、レースでの強さというのはクルマの特性にピタッと合うサーキットに行けば、もう1度トップグループ争いに戻ってくる可能性は大いにあるように見ていて思いました。
そしてアルファタウリと角田裕毅についてですが、マシンのアップデート効果が出てくるのはこのベルギーGPかなと思っていたので、パフォーマンスには期待していたのですが……。ただ、決してすごく悪いわけではないです。普通に戦えていればポイント圏内で戦えるポテンシャルはあると思うので、もうひとつ何かを見つけることができれば、アルファタウリが中段グループのトップグループに返り咲くことも不可能ではないのかなという風に思います。
裕毅は予選で最終シケインのブレーキングミスさえなければガスリーとそこまで変わらないタイムだったと思います。ターン1では0.3~0.4秒くらい裕毅がタイムを失っていましたけど、他のコーナーや最後のセクター3では裕毅が盛り返してガスリーに対し0.1秒くらい失っていただけなので、実際にはそこまでタイム差はありませんでした。
そういったことを考えるとピエール・ガスリーも9位でフィニッシュしていますし、決勝の裕毅もガスリーと変わらないペースで走ることができていました。裕毅はうまく流れさえ作ることができればポイント争いのなかで戦えると思うので、そこまで悪いとは感じません。ポテンシャル的にはやはりアップデートした分の取り分はあるなと僕は感じました。
今回のベルギーGPではHRC/ホンダ製のパワーユニットを搭載するレッドブル、そのマシンのステアリングを握るフェルスタッペンが活躍してくれるのは日本のファンのみなさまにとって嬉しいことだと思いますが、やはり、フェラーリとメルセデスもトップ争いに絡んできてくれないと全体としては盛り上がれません。今回はフェルスタッペンが14番手から追い上げる側だったので見どころも多かったですが、ポールポジションからのスタートだったらフェルスタッペンが勝つことが予想できて拍子抜けしてしまいます。
次戦のオランダGPはサーキット特性がまた変わり、どちらかといえばメルセデスとフェラーリのマシンに合っているサーキットだと思います。そういった意味ではまたレッドブルとの差は縮まると思いますし、場合によっては逆転するかもしれません。今後のレースのサーキット特性などを見ていくと、圧倒的にレッドブルが有利なサーキットもありますけど、逆にそうではないサーキットも多くあります。ですので今年のF1、そしてチャンピオン争いもまだまだいろいろな戦いを見ることができるなと期待しています。
<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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