更新日: 2022.10.20 12:36
【中野信治のF1分析/第18戦日本GP後編】奇跡の連続となった決勝日。『ホンダの想い』鈴鹿でついに結実
いずれにしても、日本のファンとしてはすごく嬉しい瞬間だったと思いますし、いろいろな目に見えない力がエネルギーに変わり、こういった奇跡的な出来事を引き起こしたのかなとも思ってしまいます。
ホンダが開発したパワーユニットは昨年、日本を走ることができませんでしたが、今年の日本GPでこんな結末になり『持っているな』ということは少し思いました。表彰台にはHRC四輪レース開発部部長の浅木泰昭氏が登壇していましたけど、その場面を見て、ここに至るまで、ずっとホンダが戦い続けた想いのようなものが形になったのかなと思います。
もちろん、本当に思い描いていた形ではないとは思いますが、でもやはりこの鈴鹿サーキットで今回の結末になったことは、神がかりとは言いたくありませんけど、何か不思議な縁や力を感じました。ありえないことが重なったので、そこにいろいろな人たちの想いもあるのですけど、やはり絶対に忘れてはいけないのは、ホンダの第4期F1活動でいろいろなことが起こりながらも、昨年ワールドチャンピオンにまで上り詰めました。
そして今年は自動車メーカー『ホンダ』としてのパワーユニット供給ではなくなってしまいましたけど、ホンダの開発したパワーユニットの力が今年のチャンピオン獲得も大きく後押ししたことは間違いありません。その点と点が繋がって線になり、そして今回の鈴鹿で形になったのだと感じました。
最後に母国GPを迎えた裕毅に関してですが、レース前の番組でも本人と話をしましたけど全然リラックスして日本に戻ってきていました。スクール時代に何度も走行していた鈴鹿ですが、あまりにも見る景色が違ったのだと思います。鈴鹿サーキットに行っても何度か顔を合わせて話をしましたけど、緊張感みたいなものは多少あったと思いますが、それよりも本当に母国に凱旋して日本GPを走るということで、喜びや楽しみが多い印象でした。自分自身をこれだけの人たちが応援してくれていて、そのなかで走るという喜びといいますか、そちらを楽しんでいた感じでした。
そのことは走りにも出ていたと思います。初めて鈴鹿でF1マシンを走らせた週末でしたけど、順調に走行を重ねてポテンシャルも引き出すことができていました。レースに関しても、特に前半のペースはすごく良かったですし、トータルで見ても大きなミスなく、本当にマシンのパフォーマンスは100パーセント引き出せていたように見えました。予選もうまく決めて自分のすべてを引き出したということを言っていましたし、初めての日本GPとしては本当に満点に近い走りができたのではないかと思いました。
日本GPでは週末を通してガスリーに対してもリードしていましたし、むしろガスリーの方が気持ちが乱れているといいますか、アルピーヌへの移籍も決まったのでいい結果を出したいという思いもあったかと思います。クルマの方でも予選ではブレーキの調子が悪くて思ったとおりの走りができませんでした。ブレーキのトラブルは裕毅も一緒でしたけど、ガスリーの方が酷かったようなので、そのイライラが走りにも現れていました。一方で裕毅は自分自身のベストを尽くして、集中してレースをうまく走っていた印象です。
裕毅には初めての母国グランプリを本当に楽しんで欲しいという思いが大きかったのですが、それをまさに実行できていたと思いますし、楽しめてるイコール気持ちよく走れている証拠でもあるので、絶対結果にも繋がります。
ですので、これからのシーズン終盤に向けての流れ、さらには来年にはデ・フリースがチームに加入してきます。そのデ・フリースが来る前に、もっとアルファタウリのなかで自分自身のポジショニングを確立していく必要があると思いますし、そのためにも今のチームメイトであるガスリーよりも前を走行するということはチームに対して大きなアピールになると思うので、アルファタウリ内での主導権を握るためにも、これからも引き続き集中してほしいです。
<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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