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投稿日: 2022.11.09 14:57
更新日: 2022.11.09 15:22

【中野信治のF1分析/第19&20戦】メルセデス復調の背景。好調の今だからこそ伝えたい角田裕毅への厳しい提言


F1 | 【中野信治のF1分析/第19&20戦】メルセデス復調の背景。好調の今だからこそ伝えたい角田裕毅への厳しい提言

 決勝レースのスタートではポールのフェルスタッペンがソフトタイヤ、2番手、3番手のメルセデスがミディアムタイヤと、第1スティントのタイヤの選択が分かれました。見ている側としては面白くなりそうで大興奮でしたね。レッドブルはソフトスタートだったので2ストップで行くのだろうと思っていましたけど、結局は1ストップでした。レッドブル的には路面コンディションの悪い前半は、ミディアムに比べてソフトの方にアドバンテージがあり、もう少し引き離せるかと思いきや、ミディアムを履くメルセデスのペースが思いの外、ペースが良かった。

 そのメルセデスのペースを見て、レッドブルは序盤で逃げる2ストップ戦略を止め、ソフトを保たせる方向にドライビングを変えました。メルセデスを引き離せないと思ったレッドブルとフェルスタッペンは、ペースをコントロールすることで、どのパターンでも対応できるような流れに持っていきました。ミディアム装着のメルセデスは1ストップで、レッドブル側は序盤に思ったよりも差が開かないことがわかったので『2ストップでは勝てない』と思ったはずです。

 そのためにはスタートタイヤのソフトを保たせて1ストップに変更するしかありませんでした。そのためにはソフトをマネージメントしながら、とにかく後ろの(ルイス)ハミルトンを従えて走り続けることに集中しました。第1スティントの最後の方ではかなりタイヤが厳しそうでしたけど、何とかあのペースを維持できたのはフェルスタッペンの技だと思いますし、レッドブルはレースの展開を読むといいますか、流れを見極めるのが早かったです。

 また、レース中には路面コンディションも大きく変わり、これはメルセデス的には誤算となりました。ミディアムがあそこまで保つとは思わなかったはずです。第2スティントでレッドブルはミディアム、メルセデスはハードを選択しました。メルセデス的にはレッドブルは2ストップになると思っていたでしょうが、路面コンディションの改善で第2スティントのミディアムのペースが予想よりも落ちませんでした。

 メルセデスのもうひとつの予想外は、路面が良くなったにもかかわらず、第2スティントで選んだハードタイヤがまったく機能しなかったことです。これまでの実績からも、メルセデスはハードタイヤに絶対の自信があったと思うのですが、それが機能しなくなってしまった。

 本当にメルセデスにとってはスタートまでは完璧なはずの作戦だったけれど、ハードが思いの外機能しなかったこと、そして路面コンディションが改善されて、レッドブルのミディアムのペースが最後まで保ってしまったというふたつの想定外の事態がありました。メルセデスの作戦が間違っていたというわけではありません。第1スティントを見ていたときには『これはメルセデスが勝つのでは』と多くの人が思っていたはずですが、路面コンディションの改善で思いの外ソフトとミディアムが保ってしまったので、レッドブル的には勝利することができました。

2022年F1第20戦メキシコGPレースタイヤ選択状況
2022年F1第20戦メキシコGP レースタイヤ選択状況

 メルセデスはふたりのドライバーで戦略を分けるという選択肢もあったはずですが、レッドブルに対しての動きという部分で言うと、ハミルトンに関しては、トップ走行中の時点で判断することは少し難しかったと思います。レッドブルは2ストップだと序盤でメルセデスは踏んでいたと思いますし、そもそも後半のハードタイヤが機能すると思っていたはずです。ですがハードに交換したハミルトンのペースが思いの外上がらず、タイムが落ち始めたラッセルも結局その後すぐにピットに入りハードに交換してしまいました。ラッセルに関しては、最初のピットインをあと数周我慢して先にハードに替えたハミルトンのペースを見てから判断していたら、どうなったか分からなかったと思います。

 その点、ダニエル・リカルド(マクラーレン)がまさにそういった作戦で、ミディアムタイヤスタートで45周目までピットインを引っ張って、後半はソフトタイヤに交換しました。リカルドの後半の走りを見ていると決して悪い戦略ではありませんでした。

 そのリカルドはメキシコでは久しぶりにキレッキレの走りをしていましたけど、残念ながら角田裕毅(アルファタウリ)とターン6で接触してしまいました。裕毅にとってはいい走りをしてただけに、怒り心頭だと思います。実際ターン6はオーバーテイクのできるコーナーではないので、リカルドは間違いなく強引ではありました。ですが、リカルドはソフトで走りはじめたばかりでイケイケの状況だったということと、その手前のコーナーから裕毅はブロックのためにラインを潰していたのでターン5からの加速が圧倒的にリカルドは良かったです。

 こういったサーキットはレコードラインやクリッピングポイントを取らないと路面がすごく汚れています。ですので、後方を走行しているドライバーからしたら、逆に相手のラインを外したいという思いがあります。接触したときのように、インを牽制して入っていくことで裕毅のラインを潰すことができます。

 あのときの裕毅は、リカルドは入ってこないと思っていたはずです。リカルドが入ってきたときにミラーで見ていたら裕毅はあの角度でターンインしていかないはずです。もしミラー見ていたら、接触はしたと思いますけど、そこまでクルマは壊れることなく、そのまま走り続けることはできたと思います。そういった意味では、ターンインするところで『リカルドは来ないな』というような気持ちが裕毅にあったのだと思います。

 対するリカルドは百戦錬磨のドライバーですし、今年一番と言っていいくらいの勢いがある最中でしたけど、あの接触もブレーキングが間に合わずにぶつかってしまったというわけではありません。普通にマシンをコントロールしながらターンインしていました。結果としては、あのコーナーは追い抜ける場所ではなく本当に強引に行きすぎたことが第1印象でした。ただ、接触して裕毅はレースをリタイアしてしまった。いい走りをしていただけに本当にもったいないことをしました。

 ただ、今振り返ると、手前のコーナーを立ち上がったところで一度インにマシンを寄せて牽制していれば、リカルドのあそこで入ってくることはなかったのかなとも思います。レース後にそんなこと言っても仕方がないことで、瞬間の判断はそんなに簡単なことではありません。それでも今後に向けて裕毅の方で何かやれることがあるとしたら、ターン6は追い抜きのポイントではないけれども、万が一のことを考えて、その手前のコーナーを立ち上がったときに、一度しっかりインに寄って後ろのリカルドに『入れさせないよ』と牽制するべきでした。

 今回の接触は裕毅が悪いという話ではなく、今後に向けて同じような場面は起きると思いますし、強引に入ってくるドライバーも絶対にいると思います。今回は結果論なのでこうして言うことができますけど、何よりレーシングドライバーとしてはリタイアは避けなければなりません。

 裕樹と同じような場面で、エステバン・オコン(アルピーヌ)は同じようなバトルをしているときには、しっかりとブロックラインを通っていました。同じようにインに寄って自分の方が加速しないことは分かっているので、出口でわざとゆっくりと加速して抜かされないような走りをしていました。そういった図太さやズルさというのは今後、裕毅がさらに上に上がっていくためにはあってもいいのかなと思います。今回はリカルドが強引だったということもあるのですけど、それだけだと成長していくことはできません。厳しい見方をすると、そういったことも必要だと僕的には思います。

 それでも裕毅はアメリカとメキシコに関してはチームメイトのピエール・ガスリーを上回る走りをしていたので、この2連戦は本当に100点に近い仕事をしてきていると思います。この2年間、F1の舞台で走り、本当の意味で成長していることが誰でも分かるような走りを見せています。今回のリタイアは悔しいと思いますけど、この結果をいろいろな意味でプラスにしてほしいですし、そういった意味も込めて僕的には少し厳しめのコメントをしています。調子がいいときだからこそ、次回はさらに上を目指して欲しいですね。

2022年F1第20戦メキシコGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2022年F1第20戦メキシコGP 角田裕毅(アルファタウリ)

角田裕毅(アルファタウリ)
2022年F1第20戦メキシコGP 角田裕毅(アルファタウリ)

<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

中野信治さんとサッシャさん
DAZNでF1中継の解説を担当している中野信治さんと、実況のサッシャさん


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