さて、2022年のマシンがラップタイム的に遅くなった理由を考えると、やはり車重の増加が最大の理由ではないか。タイヤ/ホイールサイズの変更も影響しているだろう。車重に関していえば、2022年はドライバー込み、燃料レスの状態での最低重量が798kg。2021年より約6%もマシンが重くなっていたのだから、一発の速さが少し遅くなるのは当然ともいえよう。これくらいで済んでいるのは立派?(他の要素を完全に無視した話だが)
ここで、次のような疑問を感じる方もいるだろう。
「F1のマシン規定はほぼ毎年なんらかの変化があると思うが、2021年のマシンは大きなくくりでいう“2017年規定”の最終版であるはず。新規定初年度の2022年マシンにとって、あまりに不利な比較相手では?」
確かに。それでは、ハンガリー、イタリア、アメリカ、メキシコの4グランプリに関して、2016年から予選Q3最速タイムの変遷を見てみよう。
■2016〜2022年における予選Q3の1位タイム推移
GP | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ハンガリー | 1分19秒965 | 1分16秒276 | ウエット | 1分14秒572 | 1分13秒447 | 1分15秒419 | 1分17秒377 |
イタリア | 1分21秒135 | ウエット | 1分19秒119 | 1分19秒307 | 1分18秒887 | 1分19秒555 | 1分20秒161 |
アメリカ | 1分34秒999 | 1分33秒108 | 1分32秒237 | 1分32秒029 | 開催なし | 1分32秒910 | 1分34秒356 |
メキシコ | 1分18秒704 | 1分16秒488 | 1分14秒759 | 1分14秒758 | 開催なし | 1分15秒875 | 1分17秒775 |
シルバーストン(イギリス)、バルセロナ(スペイン)といったところを入れたかったが、シルバーストンは肝心の2022年の予選Q3が雨、バルセロナは2021年からコース全長が変わっており、採用を断念した。
低速寄りの印象が根強いハンガリー、高速系の代名詞であるイタリア、今回の統計では中間的と思われるアメリカ、標高が高いという個性をもつメキシコ、この4つの流れを見ると、ザックリしたくくりの2017年規定時代(2017〜2021年)には、それほど大きなタイム変動はなかったといえよう(ハンガリーGPはやや乱高下気味だが)。
“2017年規定2年目”の2018年に若干の高速化傾向こそ感じられるが、F1チームの開発力は早い段階で、つまり新規定1年目にして“その規定のマックス”に近い領域に一応の到達を果たしてしまう、ということが言えそうなのである。
ということで、大きなくくりで見た“2022年規定2年目”の2023年になって急激なまでの状況変化があるということは考えにくい。それこそ2017年は明らかに2016年よりも速くなっていたわけで、2022年が2021年比でそうならなかったということは、当面は概ね2022年のタイム水準が続く可能性が高そうだ(F1の場合、ささいな規定変更がゲームチェンジャーの役割を果たすことも考えられなくはないので、断定はできないが)。
鈴鹿サーキットの予選コースレコードは1分27秒064。2019年、台風の影響で日曜(決勝日)の実施になった予選のQ3でセバスチャン・ベッテル(当時フェラーリ)がマークしたタイムである。3年ぶりの開催だった2022年のQ3トップタイムは1分29秒304(マックス・フェルスタッペン/レッドブル)。鈴鹿1分26秒台という次の夢が実現するのは、しばらく先のことになりそうだ。
昨季を最後にF1から引退したセブ、大好きな鈴鹿のレコードホルダーの座は当分、安泰なようですよ。
2022年規定導入の主たる目的であったレース中のオーバーテイクの増加、こちらの効果のほどはどうだったか? オーバーテイクについて自主統計で語ることは困難、あくまで個人の感覚的なところで話すのが精一杯だが、大きな状況変化はなかった、ように感じられる。ただ、抜けそうで抜けないまま、といった状況は少し減ったようにも思えた。読者のみなさんはどんな感覚をお持ちだろうか。
今季2023年のF1も新車発表が続くなどして、開幕近しの雰囲気が強くなってきた。“2022年規定2年目”は、どういう数字の動きが見られるのか、楽しみにしたいものである。

