Translation:Kenji Mizugaki

 フェラーリが合法性に関してFIAに問い合わせを行ったトリックサスペンションシステムについて、他のF1チームも加わって協議したものの、意見の一致が得られず、プレシーズンテストの前に、FIAが再度、技術指令書の形で見解をチームに通達することになった。
 このサスペンション問題が起きた経緯、フェラーリが注目するシステムの効果について、英AUTOSPORTが解説した。

 メルセデスが先鞭をつけたF1のサスペンションシステムについて、何とかその足を引っぱろうと術策がめぐらされるのは、いまに始まったことではない。だが、フェラーリがFIAへ質問状を送ったことで周知となった今回の一幕は、2016年シーズン最終戦アブダビGPでのある出来事が発端とされている。

 消息筋によると、そのレース中にダニエル・リカルドとレッドブル首脳陣との間で、クルマのサスペンション・セットアップが空力に及ぼす影響についてのやり取りがあったという。そして、それを聴いた他のチームが、彼らの最新のサスペンション・デバイスは、当初考えられていた以上に空力面でも大きな効果があるのではないかとの疑いを持ち始めたのだ。

 昨年末、フェラーリがFIAに対し、どこまでが許されるのかを明確にしてほしいという質問状を出した理由の少なくとも一部は、そこにあった。車体の姿勢をコントロールして、空力性能を高めることを第一の目的としたサスペンションシステム「FRIC」は、2014年の時点で禁止されているからである。

 レースディレクターのチャーリー・ホワイティングに、そうした形でルールの明確化を求めるのは、F1ではよくあることだ。それによってチームは、自分たちが試そうとしているデザインの合法性を確認できるだけでなく、ライバルが使っているシステムをより深く理解し、他のチームがグレーゾーンでやっているかもしれないことに、FIAの目を向けさせるチャンスにもなる。

■フェラーリが注目した、新システムの仕組みと効果

 フェラーリが問い合わせたのは、メルセデスが合法的に使ってきたものよりも、さらに複雑なシステムの使用の可否についてだった。簡単に言えば、サスペンションの動きによって生じたエネルギーを蓄えておき、そのラップの別の個所でクルマの空力的姿勢をコントロールするために、蓄積したエネルギーを利用するというものだ。

 ただ、メルセデスやレッドブルが、すでにそうしたシステムを使っていて、フェラーリもそれを知っていたとすれば、彼らが質問状を出した真意はそう単純ではないかもしれない。つまり、フェラーリは2017年にそのようなシステムを使おうとしているというよりも、むしろすでにライバルに何歩も先んじられ、今後追いついていくにはコストがかかる開発領域を、先手を打って封じてしまおうとした可能性もあるということだ。

 フェラーリがルールの明確化を求めた質問状の中で、一般の人々にとって最もわかりづらいのは、「保存したエネルギーを、後にスプリングまたはサスペンションの他のパーツを伸展させるために再利用する」という部分だろう。

 これは特定の条件下でエネルギーを保存したり、放出したりするように設計された油圧アキュミュレータ、すなわち一種の高圧流体コンピュータの利用を暗示している。この流体論理システムは、1周の間にクルマが様々な条件の影響を受ける中で、インプットに対して複雑な形で反応する。

 そうなると、ヒーブエレメントとそれに接続されたアキュミュレータは、3次元マップを用いた高度な姿勢制御システムと見なすことができる。一見したところ、ヒーブエレメントは単純な筒状のスプリングとダンパーのユニットのように見えるかもしれないが、その中には大小いくつものチャンバーが組み込まれていて、様々な入力、負荷状況、条件に応じた動作をするのである。

 F1マシンがコーナーの手前で減速するとき、クルマの荷重は前方へ移動し、ダウンフォースの前後配分も変わってしまう。もしチームが、そこで生じる慣性を数学的に正確に理解していれば、マシンの姿勢変化を許容できる範囲内に維持するには前後のサスペンションがどう反応すればよいかについての数値モデルを作り、それに基づいた論理システムを組めるはずだ。

 そのようにしてクルマの姿勢を安定させれば、メカニカルグリップと空力の両方が改善され、ドライバーはコーナーでのボトムスピードをより高く保てるし、立ち上がりでは、そうした制御がないクルマよりも早いタイミングでスロットルを開け始めることができる。

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