■FRIC効果の再現を目指す
ホワイティングがクリスマス前に出した技術指令書は、そうした形でエネルギーを保存し、再利用するサスペンションシステムは違法と見なされることを示唆していた。フェラーリが問い合わせたシステムは、かつていくつかのチームが用い、2014年ハンガリーGP前に禁止されたFRIC(Front to Rear InterConnected=前後の相互連結)システムと、実質的に同じ働きをすると考えられるからだ。

空力面での効果も見込めるクレバーなサスペンションシステムの端緒は、フェルナンド・アロンソがタイトルを獲得した2005~2006年にルノーが導入したマスダンパーにまで遡ることができる。そして近年では、メルセデスがFRICの技術で最先端を行っていた。
FRICが禁止された後、開発の焦点は、その「副次的な効果」を再現することに移ってきた。つまり、前後輪のサスペンションを油圧で接続せずに、同様の効果を生み出そうとしてきたということだ。
FRICが行っていたことの大部分は、ヒーブ、すなわちクルマの垂直方向の変位に関係している。また、前後のサスペンションの連結は、コーナーでのマシンのロールを安定させることにも役立ち、結果として空力的な安定性も向上させていた。
当然のことながら、当初チームはこのシステムを導入する理由について、タイヤの性能を十分に引き出し、ライフを伸ばすことにあると説明し、FIAもそれを信じて受け入れていた。実際、FRICにはタイヤ接地面積の変動を減らし、メカニカルグリップを向上させる効果があったのは間違いない。
しかし、チームの真の意図は、最初から空力性能の向上にあった。シャシーの姿勢が常に安定していれば、ピーキーでアグレッシブな空力ソリューションを使えるようになるからだ。

ヒーブエレメントは、高速時にサスペンションを硬くする効果をもたらし、ダウンフォースがかかったときに荷重でクルマが沈み込むのを防ぐ。そして、低速時にはヒーブダンパーが切り離されて、ドライバーが望むサスペンションのしなやかさを与えてくれる。だが、デザイナーたちがパフォーマンスを引き出さなければならないのは、そうした単純な定常状態ではなく、刻々と条件が変化するような過渡状態においてだ。
メルセデスの技術陣を率いてきたパディ・ロウは、英AUTOSPORTの精密なテクニカルイラストレーションの作者として知られるジョルジオ・ピオラとのインタビューで、彼らが2016年に使用したサスペンション・システムの空力的な効果について、隠し立てすることなくこう語っている。
「古典的なスプリングの変形は線形(=直線的)だが、現在私たちが扱っているのは、それとは比べものにならないほど複雑で、かつ広範囲にわたる非線形的な変位だ」
「そうして、私たちは理想的な空力プラットフォームを手に入れ、それを基盤としてセットアップを進めていくことができる。FRICと比べると、現在のシステムの方が扱いが難しいが、基本的には同じものと考えていい」