更新日: 2023.03.16 12:24
ミカ・ハッキネン独占告白。マクラーレンMP4-12とメルセデスV10、F1初優勝の物語
Translation : Miho Kanda
──ヘレスで行なわれた最終戦ヨーロッパGPは、F1史上稀に見る不可解なレースでした。レース前にマクラーレンとウイリアムズがある取り決めをしていたことを知っていたのですか。
「レース前ではなく、レース中に何か取り決めがあるかもしれない……と気づいた。そして、またしても僕はピットストップなどで不運に見舞われ、デビッドが前に出ていた。97年シーズンは何度か勝てそうなレースがあったのに、マシントラブルのせいでそのチャンスを失っていた。今回、僕に勝たせようと決めたのはチームであり、ロン(・デニス)だったと思う。デビッドは優勝した経験があったので、おそらく僕を勝たせてシーズンを締めくくろうと考えたのだろう」
「もし、自分がデビッドの立場だったら、当然ものすごく頭にきたと思う。でも、あれは自分の判断ではないので、僕には何も言えない。トップでチェッカーを受けて優勝した時は正直うれしかったが、まだマシンの速さが充分ではないことは分かっていたし、もっと努力しなければならないと思った。それでもエイドリアンがマクラーレン・ファミリーに加わってから、状況はどんどん良くなっていったよ」
──先ほど、あなたが指摘したフロントウイングは、97年にニューウェイが携わった唯一のパーツでした。でも、あのパーツだけですぐに数年間にわたってウイリアムズが強さを誇っていた理由が分かりましたか。
「まさにそのとおりさ。確か93、94年だったと記憶しているが、ロンを連れてウイリアムズのマシンを見に行ったことがある。そこで僕はロンに、『あのフロントウイングとリヤウイングを見てほしい。僕らのウイングもまともで申し分ないと思うけど、何かが足りないんだ……』と伝えたんだ。
エイドリアンが加入するずっと前から、何か手を打たなければならないことはロン自身も分かっていた。ただ、銀のトレイに載せて、『さあ、ミカ、これが解決策だ』と目の前に差し出せるものがなかったんだ。だからこそ、その解決策を導ける人材をチームに引き入れ、チームを立て直す必要があり、それには少し時間が掛かることをロンは理解していた」
「それまではライバルたちより優れている部分に焦点を当て、自分たちが誇れる部分を伸ばしていくしかなかったというわけさ。時にドライバーは、勝つためになりふり構わないことがある。でも、勝てるようになるまでは、本当に忍耐力が必要なんだ。優れた勝者になりたいなら、潔い負け方を知るべきだとよく言われているが、そのためには時間と忍耐、そして人に対する信頼を大切にしなければならない」
──その言葉どおり、初勝利までは長い時間、待たなければなりませんでしたね……。
「悔しいことだけど、そのとおりだったよ」
──それでも97年シーズンの終わりには、翌98年の新車にニューウェイが関わっていることもあって、期待値がすごく高まっていたのではありませんか。
「そうだね。実際にこの目でマシンのモックアップなどを見て、期待はすごく高まった。マシンの細部に至るまで配慮が行き届いていて、明らかにこれまでとは違っていたからだ。それまでは部門ごとにパーツを作り、開幕の2カ月前になってシャシーに組み込もうとすると、他の部分と噛み合っていないことに気づくといった感じだった」
「それがエイドリアンが来てからは、すべての部門が協力し合って、まとまって開発をしているという印象を受けたんだ。そこから、完璧なパッケージが出来上がっていった。短期間のうちにチームの様子が変わったのが分かったし、それがうまく機能したのだと思う」
──あらためて振り返ってみると、あの頃はニューウェイ、パディ・ロウ、スティーブ・ニコルス、タイラー・アレクサンダーという、そうそうたるメンバーが勢揃いしていましたよね。
「本当に信じられないような顔ぶれだ。素晴らしい知性を持ち、頭の回転の早い人たちが協力して仕事に取り組み、問題を解決してくれていた。当時を振り返ってみると、本当にファンタスティックだったと思う」
「今、彼らとテーブルを囲み、おいしい食事とワインを楽しみながらおしゃべりできたら、どれだけ楽しいことだろう。いろいろと突っ込みながら当時の話をしたいし、彼らがあの頃のことを今、どう思っているのかも知りたい。それに私が感じていることについても、彼らの意見を聞いてみたいんだ。とても有意義な時間を過ごせると思うよ。誰もが本当に優秀で個性的だったからね」
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『GP Car Story Vol.43 マクラーレンMP4-12』では、今回お届けしたハッキネンのインタビュー以外にも見どころ満載。このクルマを語る上で外せないメルセデスV10エンジン、その生みの親であるマリオ・イリエンのインタビューのほか、メルセデスF1の顔だったノルベルト・ハウグの手記も掲載している。
もちろん、“連敗脱出”の要因はエンジンだけでなく、過去2年間の反省を踏まえての空力とメカニカル面の大幅なアップデートが実を結んだ結果だ。車体全体統括のニール・オートレイ、空力のアンリ・デュラン、さらに不振のチームを復活させるために呼び戻されたスティーブ・ニコルスによる“改革案”は読み応えあり! 秘密計器“ブレーキステア”の当事者たちが語る解説企画もマニアには生唾モノ間違いなし。
どうしてもハッキネンだけに陽が当たってしまうが、この年の結果、数字だけを見ればデビッド・クルサードの方が上だった。そんな彼がチームからの待遇やそれに対するその時の心情を隠すことなく本音を赤裸々に語ってくれているインタビューは、ある意味今回一番読んでもらいたいインタビューかもしれない。
『GP Car Story Vol.43 マクラーレンMP4-12』は3月15日(水)より発売中。全国書店やインターネット通販サイトにてお買い求めください。内容の詳細は三栄オンラインサイト(https://shop.san-ei-corp.co.jp/magazine/detail.php?pid=12734)まで。