【中野信治のF1分析/第2戦】低ダウンフォースでも『曲がる&止まる』レッドブル。FIA F2今季初優勝の岩佐歩夢の大きな一歩
第2戦での(角田)裕毅は今回も結果的に11位とポイント獲得まであと一歩のレースでした。裕毅はF1参戦1〜2年目のころにいいレースの際に逃さずチャンスを掴みに行くということを学んだと思います。同時に、状況が悪いときに自分とクルマのパフォーマンスをいかに引き出すかも学んでいたと思います。その経験は今回のサウジアラビアGPでも実践できていたのではないでしょうか。
苦しい状況でもいい走りを続けていれば、たとえポイントを獲得できなくても裕毅の評価が下がることはありません。マシンが苦しいということは、レースを見ていればわかりますし、チームも理解しているはずなので、裕毅が悲観する必要はないと思います。個人的には気持ちを上げて1戦1戦に臨んでほしいなと思っています。
開幕戦のバーレーンGPもそうでしたが、裕毅の走りはアルファタウリ『AT04』のポテンシャルを100パーセント引き出していると感じています。そのため、安心して裕毅の走りを見ることができています。クルマが良くなったときに、確実にポイントを取ることができる走りです。
終盤のケビン・マグヌッセンとの1ポイントをかけた10番手争いのバトルも、ストレートの速いマグヌッセンに対して裕毅は自分とマシンの長所と短所を把握した上で、巧みなライン取りやDRSを利用してポジションを死守しようとしていましたね。最後は1コーナーのブレーキング勝負でイン側で止まりきったマグヌッセンに抜かれてしまいましたけど、オーバーテイクを決めたマグヌッセンも、裕毅もともに、頭脳戦とも表せる見事なバトルを見せてくれました。
次戦はオーストラリアGPということで、アルバートパーク・サーキットはストレートも長くはありませんから、ストレートが遅いアルファタウリの苦手な部分は少しは解消されるかもしれません。ただ、AT04は低速コーナーをそこまで得意としているようにも見えていないので、いいセットアップを見つけてほしいところです。
F1を目指す若手ドライバーが参戦するFIA F2では、ダムスから参戦する(岩佐)歩夢がスプリントレース(決勝レース1)で4番グリッドスタートから今季初勝利を飾りました。今季の歩夢は、昨年の歩夢とはまったく違いますね。戦い方が3〜4年のベテラン勢と遜色ないですし、タイヤの使い方が本当にうまい。スタートもきっちりと決めましたし、レース展開については100点満点に近いところにいると思います。
自分自身のことを俯瞰で見て、自分がやれること、やるべきことをリスクのない範囲でやっています。FIA F2はポイントを取り続けなければタイトルを掴むことはできません。今後のステップアップに向けて、冷静に戦えていると思いますし、ダムスというチームとともに成長していると言いますか……歩夢がダムスというチームを成長させているとすら感じています。
DAZNで配信中の『Wednesday F1 Time』でも歩夢が話していましたが、今季ダムスにはモナコ出身のアーサー・ルクレールが加入しました。フランスチームにフランス語圏のドライバーが加入したことで、チームミーティングでの言語がフランス語になってしまっていたそうですが、歩夢はチームの今後の成長・チーム内の雰囲気も考え、英語でミーティングをすることを進言し改善を図りました。
これは歩夢の好調を維持するためには大きな動きですし、進言したからには優勝という結果で証明することはドライバーにとっては大切なことです。ルクレールはやはりフランス語圏のドライバーですので、フレンチ・コネクションがかなり強いドライバーだと思います。ルクレールも自分がタイトルを獲得するために『できることはなんでもやる』でしょうから、歩夢はまず、コース外での大きなミッションをひとつクリアできたのではないかと思います。
現状、FIA F2においてダムスのマシンは最速ではないのですが、歩夢とチームのセットアップ力。そしてルクレールとの共闘体制をいかに作れるかが今後の鍵となると思います。やはり、FIA F2はドライバーひとりでは戦えません。ルクレールに『岩佐はすごい。一緒に戦うしかないな』と思わせることができれば歩夢の勝ちです。そうなればダムスとして2台ともに強くなりますし、そうなれば今季好調のMPモータースポーツやARTグランプリに追いつくことができるアイディアもたくさん出てくると思います。
今後のダムスがどのような結果を残せるかは、歩夢のコース内・コース外を問わない働きにかかっていると思います。ダムスはかつてのチャンピオンチームですから、ポテンシャルは秘めていると思います。それをいかに引き出せるかが、2023年シーズンの歩夢の戦いの大きな鍵となるでしょう。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
SNS:https://twitter.com/shinjinakano24