F1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。第2戦サウジアラビアGP編です。
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ダニエル・リカルドの不在は、今季のパドックで誰もが残念に思っていることのひとつだ。コース上ではここ2年ほど苦戦続きだったとはいえ、彼は誰もが認める人気者だった。その場の雰囲気を明るくしたいとき、あるいは時として深刻な状況のなかでささやかな楽しみを見出したいとき、ダニエルはいつも期待に応えてくれた。
これまでのところ、リカルドはまだ一度もレースを訪れていない。レッドブルの一員としてグランプリの現場に姿を見せる最初の機会は、彼のホームイベントであるメルボルンになるという。だが、昨年までずっと彼のそばにいたある人物は、新たな職を得て今季もグランプリのパドックにいる。
マイケル・イタリアーノは、リカルドのトレーナー兼コーチとして広く知られてきた。同じオーストラリア出身のリカルドと共にグランプリを転戦しながら、彼の体調を管理し、レースの週末に向けて最善の準備をしてきたのだ。熱心なファンであれば、スタート直前にグリッド上でコンセントレーションを高めるルーティンを手伝っていた人物として、見覚えがあるかもしれない。
そのイタリアーノが、今年は主に別のチームの別のドライバーのために、グランプリの現場で仕事をしている。ある意味ではリカルドのルーツとも言えるレッドブルのジュニアチーム、アルファタウリで、角田裕毅のトレーナーを務めているのだ。これまでのところ、この新コンビは共有する時間をとても仲良く過ごしているように見える。
気分転換を兼ねたトレーニングキャンプを終えてサウジアラビアに入った彼らは、木曜の昼前にパドックで軽い食事をしていた。どのようにして一緒に仕事をすることになったのか、両人から話を聞いたのは、その時のことだった。
イタリアーノによれば、角田が彼のスタッフに加わってほしいと、跪いて泣きながら懇願したのだという。もちろん、それは彼流の冗談なのだが、これに対し角田は、こう言って応戦した。「どこかよそで仕事をしたいのなら、ちょうどルイス(ハミルトン)がトレーナーを探しているよ!」
角田がイタリアーノに転職を勧めたのもまた冗談だが、ハミルトンが誰よりも頼れるトレーナーを失ったことは、紛れもない事実だった。実際、開幕戦からジェッダのプラクティスまでレッドブルが圧倒的な強さを見せ、やや興ざめの雰囲気が漂うなかで、アンジェラ・カレンがハミルトンのもとを離れたことは、一部の人々にとって最大の話題になっていた。

過去7年以上にわたってハミルトンの成功を支えてきたカレンは、「チームLH」と称するグループの中心メンバーのひとりだった。もはや彼女を帯同しないという事実は、きわめて大きな変化と言えるだろう。ハミルトンとしては、トレーニングの体制とプログラムのみならず、レースの週末に最も身近なところでサポートしてくれる人物として、信頼を置けるトレーナーを新たに探さなければならないのだ。
トレーナーは週末を通じて、サーキットではずっとドライバーの傍にいる。例外はドライバーたちがクルマに乗り込んだときだけだ。ただし、それはF1マシンとは限らない。たとえば、ドライバーズパレードのために用意されたクルマに乗るときに、トレーナーが同乗することはないだろう。まあ、そこに彼らがいたところで、パレード中に何かやるべき仕事があるとは思えないが……。
ジェッダではレースの週末の間、すばらしいクラシックカーが数多く展示されていた。レース前のパレードで、ドライバーがスタンドのファンに挨拶できるように、彼らを乗せてコースを走るべく集められた過去の名車たちだ。こうした催しは、近年多くのグランプリレースで行われているものだが、今回は本番の直前になってトラブルが起きた。
走行に向けて準備を始めたところ、何台かのクラシックカーでオイル漏れが見つかったのだ。この湾岸地域で産出される石油の量を考えると、微々たる量のオイルがイベントの妨げになるのは皮肉なことではあるが、ともあれ時間内に修理を終えるのは不可能だった。結果として、ドライバーたち全員を乗せてコースを回るには台数が足りなくなり、代わりにポディウムでのインタビューが行われることになった。チームメイトのペアが交代でポディウムに上がり、その様子がスタンドから見える位置に設置された巨大スクリーンに映し出されたのだ。
私としては、この週末にポディウムに立つローガン・サージェントを見ることになるとは、まったく予想もしていなかった!