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投稿日: 2023.05.13 14:08

【中野信治のF1分析/第5戦】明暗分けたスタートのタイヤ選択。アロンソの人を動かす無線


F1 | 【中野信治のF1分析/第5戦】明暗分けたスタートのタイヤ選択。アロンソの人を動かす無線

 今年のマイアミGPは3日間で26万人が訪れました。これもアメリカのリバティメディアがF1を買収し、Netflixなどの新しいプラットフォームも活用しつつ、F1というものをよりさまざまな層の人たちに伝わるように戦略を立て実行してきた結果だと思います。レースの見せ方においても無線を聞かせるとか、番組作りでも人にクローズアップして、F1は人間の戦いだという点をアピールすることで、本当にたくさんの人たちの興味を得ることができましたよね。

 そうすることで、F1に対するイメージというのがおそらく、ガラッと変わったと思います。それまでのF1はやはりファンとドライバーの距離が遠かったのですよね。そこを、アメリカ的発想のエンターテイメント性を高める取り組みをトライしてきて、それがかたちとなってきたのが今年なのかなと感じます。

 これは戦略なので、結果の如何は開催地がアメリカだからとも限らないと僕は思います。でもアメリカは特にエンターテイメントが好きな国であるとも思います。レースがかっこいい、速いからから見に行くのではなく、エンターテイメントの場としてF1を楽しみにサーキットに行くという。そういったアメリカ人のイベントの楽しみ方にうまくF1がマッチしてきたのではないかなというふうに思います。

2023年F1第5戦マイアミGP スタートを見守る観客たち
2023年F1第5戦マイアミGP スタートを見守る観客たち

 そんなマイアミで今季5戦で4度目の3位表彰台を獲得したフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、決勝中に自分のコックピットから見える場所にいないはずのランス・ストロール(アストンマーティン)のオーバーテイクを誉める無線を飛ばすという、一味違った見せ場を作りましたね。

 あれは(観客用の)巨大スクリーンに写っていたストロールのオーバーテイクシーンを、偶然目にしたのだと思いますが、私はあの無線を聴いて、アロンソは走りだけではなく、無線を使っていかに自分の凄さを周囲に感じさせるか、自分を魅力的に見せるかをよく考えているなと感じましたね。

 やはり、F1は人を動かす、チームを動かすスポーツです。アロンソの場合、動かすべきチームとは、ランスの父ローレンス・ストロール(アストンマーティンF1チームのオーナー)なので、アゼルバイジャンGPの際もそうでしたが、「僕はチームを考えている」、「ランスのことも考えている」と、ローレンスが気持ちよくなる言葉を無線に入れてきます。このような言葉のひとつひとつもアロンソの計算の内というか、感覚的にやっている行動でしょうから、さすがです。

2023年F1第5戦マイアミGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)
2023年F1第5戦マイアミGP フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)

 コース上で走ることもレースです、そして人を動かすこともレースです。自分がチーム内で何をすれば一番有利になれるのかを考えると、これらの行動も当たり前ですよね。もちろん、これもクルマが悪かったり、遅かったりするとこういったことも考える余裕はなくなります。そういう意味では、アロンソは今最高の状況にあるとも言えます。スピードのあるクルマを持ち、レース中にも人を動かすということに頭を使える、考えられる余裕があることは事実ですからね。でも、ああいう無線を発するという発想はなかなかないですね(笑)。

 でも、そういう発想ができるから、人が思いつかない雨のレースでのライン取り、考えつかない場所でのオーバーテイクなど、先んじてやっていくことができる。それがアロンソという人の凄さだと思いますし、エンターテイナーだなと思います。

 また、あの無線の件を知ったドライバーたちは、頭の使い方や発想について、アロンソから学んでいる最中だと思います。なぜアロンソがあの場であの無線を飛ばしたのかなど、必ず理由がありますからね。ただ、みんながそれを真似するのも正しいとは思いません(笑)。あれは、アロンソの42歳という年齢と2度の王者というキャリアがあるからこそ許されている部分もあると思いますし、アロンソが自分の年齢とキャリアを踏まえて最適だと考えた末の行動でしょうからね。

2023年F1第4戦アゼルバイジャンGP フェルナンド・アロンソとランス・ストロール(アストンマーティン)
2023年F1第4戦アゼルバイジャンGP フェルナンド・アロンソとランス・ストロール(アストンマーティン)

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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