更新日: 2023.05.25 06:33
最強レッドブルからアストンマーティンにPU供給の複雑な経緯。HRC主導でのホンダF1再参戦の狙い
もうひとつの変化は『アメリカ市場』である。これまでのホンダはせっかくのF1活動を、ブランド構築やマーケティングツールとして十分には活用してこなかった。しかし2026年以降は、「F1をはじめとするモータースポーツ活動を通じて、ホンダブランドを高めていく必要がある」と、渡辺康治HRC社長は言明している。ホンダの主要マーケットであるアメリカでは、F1人気がここ数年沸騰している。アメリカ市場の変化がホンダのF1復帰を後押ししたことは確かであろう。
では、ホンダがPU供給パートナーとしてアストンマーティンを選んだ決め手は何だったのか。候補としては他に、マクラーレン、ウイリアムズもあった。
「勝利やタイトル獲得への情熱をもっとも強く感じた(チーム)」と三部社長は語る。「それに加え、新しいファクトリーを見せていただいたりして、人や物への投資、着実にステップアップしていく姿勢」も評価したということだ。一方のアストンマーティン側は、有力ドライバー、スターエンジニア、最新鋭ファクトリーと次々に手駒を充実させていくなかで、ホンダ製PUは「ジグソーパズルの最後のピースだった」(オーナーのローレンス・ストロール)ということだ。
現在のアストンマーティンの勢い、財政上の安定感、技術的な層の厚さを見る限り、このチームが今後コンスタントに優勝を争う存在になることはほぼ確実と思われる。そこに現役最強PUを開発したホンダがパートナーとして組むのだから、前途は洋々に見える。
渡辺HRC社長も、「2026年の初年度からタイトルを狙っていきたい」と抱負を述べていた。しかし一方で、「コストキャップにより、何よりも効率の良い開発が求められる。決して簡単な挑戦ではない」と自戒の姿勢も見せた。
とはいえ、今後『ホンダF1第5期』と呼ばれることになるであろう2026年からのF1活動は、第4期ほどの悪戦苦闘にはならないのではないか。2015年からの第4期は、7年間という技術的空白を経ての復帰で、先行するメルセデスやフェラーリ、ルノーとの技術格差が大きすぎた。さらにパートナーのマクラーレンにも、かつての常勝軍団の面影はなかった。
それらの負の要素は今回ほとんどないと言っていい。もちろん勝負の世界だから、想定外の事態にも見舞われ、思ったような結果を出せないこともあるだろう。それでも2026年からのホンダには、効果的なマーケティング活動も含めた、息の長いF1活動を期待したい。