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投稿日: 2023.06.10 13:05
更新日: 2023.06.10 13:10

【中野信治のF1分析/第8戦】気づいた時には遅すぎる現代F1の難しさ。角田裕毅の戦う姿勢とペナルティへの私見


F1 | 【中野信治のF1分析/第8戦】気づいた時には遅すぎる現代F1の難しさ。角田裕毅の戦う姿勢とペナルティへの私見

 決勝はフェルスタッペンが今季5勝目かつ、今季4度目のポール・トゥ・ウインを果たしましたが、やはり今回のレースで大きな印象を残したのは裕毅の走りです。今回の裕毅は15番手スタートから着々と順位を上げ、中盤から入賞圏内を走行していました。

 ですが、レース終盤の周冠宇(アルファロメオ)とのバトルの際、2台はほぼ並びながらコースインするかたちとなるなか、周がターン1をコースオフ。これについて、裕毅に5秒のタイムペナルティという裁定が下り、9番手でチェッカーを受けた裕毅は12番手にポジションを下げる結果となりました。

 この件に関してはさまざまな意見が世界中で飛び交いましたが、何が正しいかは本人たちにしかわからないことだと思います。どのような意図であのライン取りとなったのかはわかりません。ただ、中継映像だけを見ていると、仕方がないことだと私にも見えましたし、裕毅へのペナルティの裁定は少し微妙かなとも思いました。

 ですが、レース後にスロー映像を含めいくつかの映像を確認すると、(ターン1の)クリッピングポイントに入った時点で周がわずかに前に出ていました。今のドライビングスタンダードガイドラインに照らし合わせると、その場合は周にレーススペースを確保する権利があり、裕毅は1台分のスペースを周に対し残しておかなければいけません。

 マシンの角度やステアリング角度も含め、ガイドラインに照らし合わせて見ていると、周がエスケープロードに行かなければ接触していただろうというのは正しいと思います。そういったガイドラインがあったので、裕毅に対する5秒のタイムペナルティに関しては仕方がないのかなと思いますし、アルファタウリがこの裁定に抗議をしなかった理由も、おそらくはガイドラインを熟知した上でさまざまな映像を確認し判断したからだと思います。

 でも、裕毅のポジションからすれば自分もレースをしているわけですし、あの場面では周が前なのか、裕毅が前なのかは結構際どかったので、あそこで裕毅が取った戦い方に関しては、ドライバー目線では決して間違ったことではないと思います。

 ただ、ガイドラインに従って見るとあそこはもう少し減速するべきだったかもしれません。でも、あの時点ではもう減速も間に合わなかったと思います。だからこそ、あの裁定はすごく微妙ではあります。ですが、ガイドラインに照らし合わせると、そういう(角田に対する5秒のタイムペナルティの裁定)見方になってしまうかたちになります。

 私はペナルティの判定に注目するよりも、今回のレースで裕毅とアルファタウリが何を得て、何を次のレースに繋げられるかが本当に大切なことだと思います。何よりも、スペインGPでの裕毅の走りはスタートからチェッカーまで、当然ペナルティはありましたが、本当に素晴らしい走りを見せてくれましたし、チームのストラテジーも、ピットストップも素晴らしかったです。

 今の段階で1ポイント、2ポイントを失ったことは、F1関係者にとっては正直、関係ないことです。それよりも、裕毅がこのレースで見せた走りの質の高さ、あの場面で引かない姿、戦う姿勢を見せたことが、チーム関係者からの評価にも繋がると考えます。そういった点から見てみると、このスペインGPは裕毅にとってもポジティブなレースだったと思いますし、裕毅もそれをわかっていると思います。

 だからこそ、このペナルティの件を今後引きずるようなことはないと思います。すでに次のカナダGPに向けて気持ちを切り替えていると思いますし、私自身そうあってほしいとも思います。

2023年F1第8戦スペインGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2023年F1第8戦スペインGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 次のカナダGPは私がF1で初めてポイントを獲得したジル・ビルヌーブ・サーキットが舞台です(1997年第7戦/決勝:6位)。セント・ローレンス川の人工島にあるため、他のサーキットとはまた雰囲気も違い、カナダや隣接するアメリカからも熱心なF1ファンが集結し、とても盛り上がるグランプリです。

 サーキット自体も特殊で、ストリートサーキットのような路面かつ、超高速レイアウトでダウンフォースも少ない。他のどのサーキットともキャラクターが異なるサーキットですから、ここに狙いを定めたアップデートの投入による勢力図の変化など、サプライズがあるかもしれません。

 ストレートスピードでレッドブルに遅れを取っているアストンマーティンもアップデート投入という話もありますので、その改善によりアストンマーティン、そしてスペインGPでダブル表彰台を獲得したメルセデスが、どこまでレッドブルとの間合いを縮めることができるのかなど、次戦のカナダGPも楽しみな要素の多いレースとなりそうです。

カナダGPの舞台となるジル・ビルヌーブ・サーキット
カナダGPの舞台となるジル・ビルヌーブ・サーキット

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24


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