【中野信治のF1分析/第11戦】勢力図、大転換の予兆。成否の鍵を握るアップデートとセットアップの最適化
そんなウイリアムズと真逆だったのがアストンマーティンです。これまでレッドブルに次ぐ2番手の評価を得ていましたが、今回のイギリスGPではフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が7位、ランス・ストロール(アストンマーティン)が14位という結果に終わりました。
アストンマーティンはシルバーストンに挑むに当たり、ダウンフォースを少し削り、コーナリングを犠牲にしてでもストレートスピードを稼ぐような、今までとは異なるセットアップの方向性にシフトしてきたというふうにも見えました。これまでのアストンマーティンといえば、コーナリングは速いけどストレートはレッドブルに届かないというイメージでしたが、シルバーストンでの走りはそんな前戦までの走りとは真逆の方向性かつ、ウイリアムズとも真逆の方向性で挑み、セットアップそのものもうまくはまらなかったと見受けられました。
シルバーストンはダウンフォース多めでコーナリングでタイムを稼ぐか、ダウンフォースを減らしてストレートでタイムを稼ぐか、決勝レースでの戦い方も含めて2通りのアプローチがあると思います。アストンマーティンは今回決勝をイメージしてクルマを作ってきていたのかなと思います。狙いとしてはストレートが速い方が抜きやすくなるし、抜かれにくくなる。さらにもともとタイヤにも優しいクルマですから、決勝での逆転を狙った方が予選の一発よりも大事だと考えてきた可能性はあります。
シーズンも中盤に差し掛かり、周りのライバルチームがアップデート投入で速くなったことで、序盤戦で見せたアストンマーティンの優位性を維持したまま予選で前に出ることも厳しいという見立てがあったかもしれません。セットアップの方向性・狙いははっきりとしていましたが、シルバーストンではそのセットアップの最適化までには至らなかったというのが今回のアストンマーティンだったと思います。
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また、今回はフェラーリも苦戦しました。オーストリアGPで2位表彰台を獲得したシャルル・ルクレールが9位、チームメイトのカルロス・サインツが10位と、ウイリアムズ2台とポジションを争う状況となりました。フェラーリはニュータイヤでの一発のタイムこそひねり出すことはできますが、決勝に関して特に高速コーナーでピーキーな動きをみせ、今季苦しみ続けている部分がイギリスGPでも直っていなかった。それがペース不足の結論だと思います。
シルバーストンは高速コーナーが多く、さらに前のマシンの背後で走ると乱気流でクルマのバランスも崩れます。そうなると、フェラーリの悩み種のピーキーさが顕著に出てしまう。それでペースを上げることはできないし、タイヤも酷使してしまうという悪循環に陥り、トレイン状態の隊列からも抜け出せないという結果に至ります。オーストリアGPでのアップデートを投入し、オーストリアGPでは多少は機能したと思います。ただ、イギリスGPの走りを見る限り、根本的な問題が解決されてないと感じます。

アップデート投入といえば、アルファタウリもイギリスGPで大型アップデートを投入しました。ただ、完走17台(編注:完走扱い含めると18台)の中、(角田)裕毅が16位、ニック・デ・フリースが17位という結果となりました。
アルファタウリの決勝の走りを見てみると、ストレートもコーナーも速いわけではなく、それでいてタイヤにも優しいわけでもない。シーズン序盤に見せたアルファタウリの車両の強み、たとえばタイヤに優しいため予選で苦戦も決勝ではポジションを上げることができる、といった強みも今回は消えていました。
アップデートそのものがネガティブな方向に行っているのではなく、ただ周りのチームのアップデートの効果の方が大きかったと私は考えています。やはり高速コーナーの多いシルバーストンでしたので、高速コーナーは苦手なままかもしれません。
ただ、次戦は低速コーナーの多いハンガロリンクですので、戦い方も大きく変わると思います。ハンガロリンクは気温も路面温度も高くなりそうですし、タイヤに厳しいサーキットです。アルファタウリが開幕から見せたタイヤに優しい特性を発揮できれば、ポジティブな結果を見せてくれるかもしれません。そこは期待したいところですね。
イギリスGPでは苦しいなか、ふたりのドライバーは本当にいい走りを見せていました。デ・フリースも今シーズンの中ではベストな走りを見せていましたし、(角田)裕毅も走りの面での好調さを維持し続け、マシンのポテンシャルを最大限に引き出していたと感じています。その頑張りが結果に現れない状況は、見ていて歯がゆいですね。
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【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿の副校長として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24