更新日: 2022.09.01 15:41
“リヤウイングレス”プジョー9X8がまもなく日本初上陸。WEC富士で見たい最先端マシンと日本と縁の深いドライバーたち
例年6月にフランスで開催されるル・マン24時間レース。F1モナコGPとアメリカのインディ500と並び、“世界三大レース”のひとつとされる同レースをシリーズのハイライトに据えるWEC世界耐久選手権に今年、フランスの自動車メーカーであるプジョーがニューカマーとして加わった。
1992年と翌93年、さらに2009年を含め合計3度ル・マンで総合優勝を果たしているプジョーが、プロトタイプカーで耐久レースに参戦するのは2011年以来、11年ぶりのこと。2022年に節目の10シーズン目を迎えている現行WECには、初参戦するかたちとなっている。
WEC/ル・マンでは2021年からル・マン・ハイパーカー(LMH)規定が最高峰カテゴリーで採用され、同時にハイパーカークラスがトップカテゴリーに位置づけられている。プジョー・スポールとフランスの総合エネルギー企業トタルエナジーズがタッグを組む“プジョー・トタルエナジーズ”が参戦するのは、ハイブリッドカーの参加も認められている同クラスだ。
このハイパーカークラスには現在、プジョーの他にTOYOTA GAZOO Racingとアメリカのプライベーターであるグリッケンハウス・レーシング、さらに、旧規定のLMP1マシンを走らせているアルピーヌ・エルフ・チームが参戦中。ル・マン24時間レースの100周年大会が行われる2023年には、ここに新型LMHカーを開発中のフェラーリ、北米IMSAの次世代規定車であるLMDhカーを持ち込むポルシェとキャデラックも加わる予定となっている。
■「創造的なブランド」を象徴する“リヤウイングレス”のマシンが登場
去る7月10日、フランスのメーカーは待望のニューマシン『プジョー9X8』をイタリア、モンツァで選手権デビューさせた。9月には富士スピードウェイで開催される第5戦富士6時間レースに向けて初来日も果たすこのクルマの特徴は、なんといってもリヤウイングを廃した独創的な車両デザインだ。
昨年導入されたLMH規定は、空気の力で車体を地面に押し付ける“ダウンフォース”と、空気抵抗の“ドラッグ”、それらの比率で求められる空力効率(L/D)の絶対値が定められている。加えて調整可能な空力デバイスはひとつのみとされた。通常であればリヤウイングがその役目を果たすが、プジョー9X8はフロントアンダーパネルのフラップが担う。
これにより9X8はマシン上面でドラッグを増やすことなく、フロア側で規定量いっぱいのダウンフォースを生み出すことを可能とし、同時に車両前部に置かれたフラップによって、より広い範囲でフロントとリヤの両方のバランスを取ることができるようになっている。通常、ドラッグを減らすことができれば、最高速の伸びにつながる。このことから、プジョーがストレート区間が長いル・マンのサルト・サーキットに焦点を置いていることが推測できる。
■パワートレインはV6ガソリンエンジン+ハイブリッド
プジョーは、ハイブリッドカーとノンハイブリッドカーを選択できるLMH規定において前者を選択した。このため『プジョー9X8』には500kW(約680PS)以上を発生する2.6リットルV6ターボエンジンに加えて、フロントにMGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)、モノコック内のガソリンタンク下にはプジョー・スポールとトタルエナジーズ傘下のサフト社との協業によって開発された900V高密度バッテリーを搭載している。
プジョー・スポールとマレリによって共同開発されたMGUは、200kW(約272PS)のパワーを発生させ、作動時には前輪を駆動させる。つまり、ハイブリッドパワーの使用中は後輪を駆動させるエンジンと合わせて全輪駆動車となるわけだ。
なお、その作動域はBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)と呼ばれる性能調整によって決められた速度に依存する。デビュー戦となったモンツァでは150km/h以上と定められていた。
また、LMH規定ではハイブリッドカーとノンハイブリッドカーのバランスを取るため、最高出力もBoPで上限が定められている。仮にこの値が500kWだった場合、ハイブリッドシステムの作動時はエンジンの出力が300kWに制限され、システム全体で上限値を超えないように設定されている。ブレーキング時の回生を含めこれらの制御を自動的に行うのは、プジョーとパートナー企業によって開発されたスマート・ドライブトレイン、およびエネルギー流束管理システムだ。