やっとつかまえられた大物/GP Car Story Ferrari 412T2
今回のGP Car Story Vol.16「Ferrari 412T2」を制作するにあたり、まずやらなければならないと自分たちに課した課題がジョン・バーナードをつかまえることでした。
これまでVol.2「Ferrari 641/2」「Ferrari F187」「Benetton B190」と、バーナードがてがけたマシンを3台特集してきましたが、残念ながら彼をつかまえられず、インタビューをとることができなかったのです。
これはやはり編集者としては悔しいもので、今回の412T2は絶対につまえなければならない、そんな使命でいっぱいでした。
しかし、F1に精通するジャーナリストの方々に、バーナードにコンタクトできるか訊ねてもほとんどが「NO」、絶望的でした。
そんな中、締切まで1カ月を切ったところで、ふたりの関係者が「居場所を知っている」と申し出てくれたのです。
もう神にもすがる思いでしたね。
ただ、最後まで取材できるかどうかはっきりしなかったため、台割もなかなか確定できず、その意味でこれまでのGPカーの中で、いちばんハラハラした号だったかもしれません。
やっとつかまえられたことでホッとしたのと同時に、編集者としては「次はこのクルマ、あのクルマについて話してほしいな~」なんて、欲が次々と……。
では、インタビューの冒頭部分を少しだけ。
ー412T2について、どんなことが記憶に残っていますか?
「私たちはあのクルマを「タイプ647」と呼んでいた。マーケティング部門がどう呼んでいたかは知らないがね。出来の良いクルマで、決して遅くはなかったよ。最初に走らせた時点では、バージボードも付いていなかった。まだ風洞でそのあたりを最適化しているところだったんだ。バージボードが付いたのは2戦目か3戦目あたりだったと思うが、それによって空力的にはかなり大きく進歩した。アレジとベルガーはふたりとも、ドライブしやすい良いクルマだと言っていた。センシティブな感じが全くなかったから、安心して限界までプッシュできたのだと思う」
ーそのふたりのドライバーを比べると、どんな違いがあったでしょうか?
「速さに関しては互角だったと思う。アレジのパフォーマンスには、ちょっとムラがあった。彼はものすごい速さを発揮するポテンシャルを持ちながら、一貫性に欠けるところがあり、100%信頼できるわけではなかった。私の言っていることを誤解しないでほしい。私はジャンが好きだし、すごいヤツだと思っている。ただ、彼はレース中にふと集中力が途切れたり、ミスをしたりすることが時々あったんだ。それと比べると、ゲルハルトはレースの終わりまでずっと安定していたが、究極的な速さはそれほどでもなかったかもしれない。いずれにせよ、彼らが十分な能力のあるドライバーだったことは間違いない」
ローノーズ選択の理由
ー412T2は1勝しかしていません。あのクルマをどのように評価していますか?
「あのクルマは、95年の終わり頃に、シューマッハーが初めてドライブしたフェラーリだった。エストリルで行われたそのテストには、V12の95年のレースカーと同じシャシーにできたばかりのV10を積んだテストカーを持ち込んだ。彼はV12が気に入り、「このクルマならベネトンよりも楽に世界選手権を勝ち取れただろう」と言っていたほどだ。実際、彼はV12でアレジやベルガーより速く走って見せたが、V10の方はあまり好きではなかったようだ。V10はスロットルを戻した時のエンジンの内部抵抗がV12より小さい(注:いわゆるエンジンブレーキの効きが強くない)。その点、V12はスロットルのオンとオフでリアエンドの動きを操れるというんだ。逆にベルガーとアレジは、その特性が嫌いだった。彼らはよく「高速コーナーでほんの少しスロットルを戻しただけで、強いエンブレが効いてしまい、クルマのバランスが崩れる」と言っていたんだ。だが、シューマッハーは、むしろそれが気に入った。それが彼のドライビングスタイルに合っていたからだと思う。彼はまるでラリーカーを走らせるように、スロットルで姿勢をコントロールしていたからね。とにかく、シューマッハーがそれを気に入り、アレジやベルガーの意見とは正反対だったことが印象に残っている。412T2は悪くないクルマだった。ハイノーズが主流の時代にローノーズだったことはあるが、これといった弱点はなかったと思う」
ーなぜローノーズを選んだのですか?
「ルール変更の影響で、ローノーズの方がフロントエンドのダウンフォースを稼げるかもしれないと考えたからだ。このクルマのシャシー下面の前輪の中心線あたりには段差があった。ノーズの裏面から来た面が、そこで70~80mmほど下がり、モノコック下面のフラットな部分につながっていた。段差の部分は滑らかに整形されていて、尖った部分は何もなかった。ハイノーズにしてモノコック前端も持ち上げると、このフラットな部分が取り残されて、突き出た形にならざるをえない。つまり、モノコック下面とフロアの間にギャップができてしまう。フロアはレギュレーションでフラットにすることが義務付けられているからだ。412T2には、そのギャップがなかった。そして、このクルマが空力的に過敏ではなかった理由の大部分は、そこにあったのではないかと思っている。96年のクルマ(F310)は、モノコックの前端を高くして、他のチームと同様にフロアの前端が突き出た形にしたが、これは寛容さに乏しくてドライブが難しいクルマになってしまった。エアロマップの上で何がどう違うのか、確認するために風洞で比較テストもしてみたが、クルマの挙動の違いを説明できるほどの違いは見つからなかった」
ー3リッターのV12は1年限りでしたが、優れたエンジンだったのでしょうか?
「後期のV12は7ベアリングになっていて、以前の4ベアリングのレイアウトよりずっと優れていた。基本的には着実に進化した良いエンジンだったよ。ただ、後に作られたV10と比べると、やはり内部抵抗が明らかに大きかった。先ほども言ったように、アレジとベルガーは高速コーナーでスロットルをわずかに戻した時、エンブレでクルマのバランスが崩れるのを嫌がっていた。そこで彼らは、高速コーナーでほんの少しだけ速度を落としたい場合には、スロットルを戻さずに軽くブレーキに触れるという乗り方をしていた。そうすればクルマの挙動は乱れないからだ」
ー95年シーズンはルノーがV10で圧勝し、フェラーリも96年にはV12を放棄しました。V10のアドバンテージはどこにあったのでしょうか?
「効率だね。V10の方が内部抵抗は小さかったし、全体として効率に優れていた。結局のところ、効率が勝敗のカギを握っているという現実から、目を背けることはできない。それにV10がアルミブロックだったのに対して、それまでのV12はほとんどが鋳鉄ブロックのエンジンだった」
このインタビューの続きは、GP Car Story Vol.16「Ferrari 412T2」でお楽しみください!
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