しかし、この展示における花形はやはりMotoGPだろう。バリー・シーンやフレディー・スペンサー、ワイン・ガードナー、ウェイン・レイニー、ケビン・シュワンツ、それにミック・ドゥーハンといった歴史に残るライダーたちの展示は間違いなく素晴らしいものだ。それだけでなく、ロレンソ自身が獲得したワールドチャンピオンのトロフィーや、レースでの優勝トロフィーなどを見られるのも特別なことである。
昨年まで所属していたヤマハは、ロレンソが駆っていた2016年モデルのYZR-M1のパーツを提供しただけに留まらず、そのマシンを丸々1台提供した。また、ロレンソがこれまでのレースで実際に使用した特別カラーのヘルメットやレーシングスーツも展示されている。
このミュージアムには、マシンよりもライダーやドライバーに興味があるファンための企画もある。特に秀逸なのが、ロレンソの宿敵であるバレンティーノ・ロッシやマルク・マルケス、それにケーシー・ストーナーのレーシングスーツが一箇所に集結しているところだろう。
モータースポーツの歴史を垣間見ることができるミュージアムのゴール地点では、2017年から所属するドゥカティのアイテムがマルケスのTシャツとともに販売されている。この売店でロッシのグッズをひとつも売っていなかったのは特筆すべきことかもしれない。
ホルヘ・ロレンソを初めて見たときにはただの強面の男に見えるかもしれないが、そのいかつい表情の下にはモータースポーツとレースを愛するひとりの男が隠れている。
ハリウッド映画『ロッキー』の主人公であるロッキー・バルボアは、ロレンソが刺激を受けている人物のひとりだ。彼自身のなかに存在する“ボクサー”としての人格、そして己に立ち向かうというスポーツの真骨頂をロッキーに見出したためだという。
競技というのは誰かに打ち勝つことであるが、ロレンソにとっては自らを改善し、よりよいレーサー、スポーツマンそしてマシンのために自己の限界と戦っていくことである。
確かにロレンソはすべてをレースに捧げる者たちを称賛する。そして彼のコレクションによって、誰もがモータースポーツの歴史を楽しむことができる。
ロレンソのミュージアムを訪れることは、日本人にとっては決して容易な旅路ではないかもしれない。しかし、ミュージアムを訪れて得られるものは明らかに価値のあるものだ。