そうなった場合、パロウとディクソンに立ち向かうのは誰なのか。その筆頭にくるのは、昨年のウイナーであり、2023年にはオーバルレースで無類の強さを誇ったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)のはずだった。
今年も彼はインディ500で強いだろう。4月中に行われた合同テストで最速ラップをマークした彼にはそうした評価がなされていた。しかし、今年もニューガーデンが勝つ可能性は急速に萎んでいる。
ニューガーデンは、開幕戦セント・ピーターズバーグでの重大な違反によって優勝が取り消され、その違反行為を重く見たロジャー・ペンスキーがニューガーデン担当の重要スタッフをインディアナポリス・モーター・スピードウェイでのロードレース、インディ500の2戦で出場禁止にした。

痛いのは作戦担当のティム・シンドリック(チーム・ペンスキー社長)、ニューガーデン担当エンジニアのルーク・メイソンというふたりを失うこと。シンドリックの代役にはペンスキーでキャリアを重ねているジョン・ブースログがあてがわれ、ダメージは最小限に抑えられたと思われる。
しかしエンジニア交代は手痛く、第4戦ソンシオ・グランプリでのニューガーデンは思いのほか低いパフォーマンスしか見せることができなかった。インディ500では、それ以上に苦戦をしたとしても不思議はない。ニューガーデンが優勝を争う可能性はかなり低くなっている。

■チーム・ペンスキーでの最有力はウィル・パワーか
ペンスキーでなら、パワーの方が優勝の可能性は高いように見えている。第4戦ソンシオ・グランプリでは2位表彰台フィニッシュを飾り、ポイントでもパロウに次ぐ2位につける彼は、インディ500を前に勢いを掴むことに成功したと言える。
そうは言うものの、ここ数年のインディ500でもっともスピードを見せているのはガナッシ勢だ。それは誰の目にも明らか。今年のペンスキー勢、そしてシボレー軍団は戦闘力を高めるためには、前述の通りにシボレーエンジンのパワーアップが不可欠だ。一昨年はホンダエンジンが優位にあり、去年その差が大幅に縮まった。そのトレンドは今年も続くだろうか。
ペンスキーで走るパワーはシーズン開幕時から”シボレーエンジンが性能を上げている”というコメントを繰り返し口にしてきている。インディ500でのパフォーマンスアップが期待できる状況であると、彼の目には映っているらしい。大会のなかでも、本当の実力が見えてくるのは予選前あたりだろう。ファストフライデイにシボレー勢がどんな走りを見せるのか、目が離せない。

■2強に迫るは3チーム。NASCAR王者は環境不充分?
チップ・ガナッシ・レーシング、チーム・ペンスキーという2強の次に勝利に近いのは、アロウ・マクラーレン、エド・カーペンター・レーシング、そして、アンドレッティ・グローバルだろうか。
マクラーレンは、インディ500もチャンピオンシップも勝てずにいる間に、パフォーマンスが徐々に下降線を辿り始めているようだ。エースのパト・オワードだけは2020年から4年連続で優勝争いに絡んでいるが、それでも最後の最後で決定力を発揮できていない。
昨年の彼は、インディ500以外のレースでも勝利を挙げることができなかった。インディ500優勝への接近度合いは、年を追う毎に下がっている印象だ。そして、アンドレッティ時代にインディ500で1勝を挙げているアレクサンダー・ロッシも、鋭い走りの印象こそ強いが、レースを通しての安定感という部分でガナッシ勢に対抗できていない。こんな状況で、NASCARチャンピオンのカイル・ラーソンはインディ500を戦うことになるが、それは注目は集めるけれどもチームとしてのパフォーマンスは上がらないのではないだろうかと、心配の声も聞こえてきている。

マクラーレンなら、アンドレッティ・グローバルの方が“打倒ガナッシ&ペンスキー”の可能性は高いのではないだろうか。今年は2年前に優勝しているマーカス・エリクソンがガナッシから加入し、チップ・ガナッシ・レーシングの速さの秘密がアンドレッティ陣営に流入する。
インディ500ではマルコ・アンドレッティもエントリーを行うので、彼らは4台体制となり、さらに技術提携をしているメイヤー・シャンク・レーシングもインディ500は3台体制だ。メイヤー・シャンク・レーシングで乗るエリオ・カストロネベスは、史上最多の5勝目を飾る可能性を秘めており、今季から新加入のフェリックス・ローゼンクヴィストもダークホースの一人に勘定すべきだろう。

エド・カーペンター・レーシングも、インディ500では毎年速く、とくに予選での実績には文句のつけようがない。リナス・ヴィーケイとエド・カーペンターは、優勝しても不思議ではないスピードを備えている。彼らの課題は、インディ500というビッグレースで200周を通しての安定感、終盤戦での決定力だろうか。
今年からチーム・ペンスキーと技術提携したA.J.フォイト・エンタープライゼスも忘れてはならない。とくに目を見張るべきは、14号車を駆るサンティノ・フェルッチだ。彼はこれまでにもインディ500で目覚ましい活躍を何度も見せてきているが、昨年は予選で4番手に食い込み、レースは3位フィニッシュという見事な結果を残した。A.J.フォイトのマシンでアメリカ人ドライバーが優勝争い、これはアメリカのファンをおおいに沸かせるだろう。
