更新日: 2024.07.20 10:25
シーズン途中で異例の導入。いよいよ始まるハイブリッド時代でインディカーはどう変わるのか
ハイブリッドシステムの導入は、レースの戦い方を大きく変えることになるだろう。ドライバーたちはパワーを蓄えることと、パワーを使うこと、その両方を上手にコントロールしながら戦うことが求められるからだ。
ドライバーたちには選択肢が増え、それらをいかに使うかという順応性、創造性といった能力が試される。この辺りは、これからレースを重ねていかないと最良の戦い方というのは見えてこないのかもしれない。
また、各チームはライバルのエネルギー状況をどれだけ見ることができるのか、さらに外から見る観客にはどの程度まで情報がオープンにされるのかもわかっていない。従来までのブーストシステムであるプッシュ・トゥ・パスの場合は、残量と各ラップでの使用量がライバルにも明らかになるシステムとされていたが……。
いずれにせよ、ハイブリッド・システムによる追加パワーのクレバーな使用法を早く見つけたチームやドライバーが、シーズン後半戦でアドバンテージを得ることとなるだろう。
しかし、そこにはハイブリッド搭載によって変化するマシンセッティングへの対応、ハイブリッドシステムが引き起こすハンドリングの変化を利用したり、影響を及ぼさせないようにシステムをコントロールする能力なども関わってくることになるだろう。
ハイブリッドシステム搭載によって、マシンは40kgほど重くなる。そのため、ギヤボックスケーシングとベルハウジングをマグネシウム化し、ウインドスクリーンの素材変更やフレーム部の設計変更による軽量化も行ったが、マシン後方の重量増が大きいため、重量配分はこれまでのものから大きく変わる。
当然ハンドリングは変化し、マシンセッティングに少なからぬ調整が必要になるだろう。タイヤは今年の開幕戦より重量増のマシンに合わせたものが使われており、シーズン前半戦はハイブリッド用タイヤでハイブリッドシステムを搭載していないマシンを走らせるという、ミスマッチな状況にあったが、ミド・オハイオからはマシンにフィットしたタイヤによる戦いが繰り広げられることになる。
シーズンの折り返しでハイブリッドが導入されれば、開発に携わって来たチーム(ホンダはチップ・ガナッシ・レーシング、シボレーはチーム・ペンスキー)が有利になるのは当然。新システムにもっとも習熟しており、多くのデータも持っている。
これからライバル勢がハイブリッドの使用法を探り始めるなか、この2チームは実走行を通じて検討を続けてきているため、シーズン後半戦をライバル勢よりも数歩前からスタートできるのだ。
もっとも、今シーズン前半もすでに彼らの戦闘力は突出しており、ポイント争いではアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)がトップ、2番手はウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、3番手はスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)と、すでにチャンピオン争いはこの2チームの真っ向勝負と決まっているようなものだ。
もちろん、4番手のコルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル)、5番手のカイル・カークウッド(アンドレッティ・グローバル)、6番手のパト・オワード(アロウ・マクラーレン)、7番手のアレクサンダー・ロッシ(アロウ・マクラーレン)らにもまだまだチャンスはあるが、新システムに関する知識や習熟度でチップ・ガナッシ・レーシングとチーム・ペンスキーに劣る彼らの戦いはシーズン前半以上に厳しいものとなるかもしれない。
そのため、ポイント8、9番手につけているスコット・マクラフラン、ジョセフ・ニューガーデン(ともにチーム・ペンスキー)が彼らを抜いてランキング上位へ進出してくる可能性は十分にある。
一方、若いドライバーたちが躍動する流れとなっても不思議ではない。例えば、アンドレッティ・グローバルのハータやカークウッド、アロウ・マクラーレンのオワードらが新システムの利用でアドバンテージを掴むパターンがそうだろう。
若いドライバーといえば、チップ・ガナッシ・レーシングには4人(パロウ、マーカス・アームストロング、リヌス・ルンドクヴィスト、キッフィン・シンプソン)もいるが、ペンスキーには皆無。彼らと提携しているA.J.フォイト・エンタープライゼスのラインナップは若いが、あまり大きな期待を寄せられるものとは言い難い。
いち早くテストに取りかかったトップ2チームに対し、ホンダ側はアンドレッティ・グローバル、シボレー側はアロウ・マクラーレンが今春までのテストに少しだけ加わっている。しかしその他のチームは、3月末にインディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースで行われた1日間のテストが初走行で、第7戦ロード・アメリカの後にミルウォーキー・マイルの1マイルオーバルで行われた1日間のテストが2回目と、絶対的に走行距離が少ない。
第8戦ラグナ・セカの後にアイオワでチームテストを行ったチームは、そこでハイブリッドマシンを走らせたようだが、そちらもまたオーバルでの使用。ロードコースであるミド・オハイオ戦に向けてのテストは、3月のインディのロードコースのみという心もとない状況だ。こんな不公平な状況が、よく全チームに受け入れられたものである。
ホンダ側は、テストを担当していたチップ・ガナッシ・レーシングがシリーズ最大の5台体制とあって、シーズン後半戦にホンダ陣営をリードしていくと見て間違いない。同じくホンダ勢のアンドレッティ・グローバルとメイヤー・シャンク・レーシングは技術提携関係にあるので、こちらも5台のデータでマシンを進歩させていくだろう。
一方シボレー勢のなかでも、今年からチーム・ペンスキーと共闘関係になっているA.J.フォイト・エンタープライゼスは、ハイブリッド導入時に技術提携のもっとも大きな恩恵を受けるチームだろう。とくにサンティノ・フェルッチは、シーズン後半戦に多くスケジュールされているオーバルレースで好パフォーマンスを見せるかもしれない。
さて、シーズン後半に計6戦が残されているオーバルレースにおいて、ハイブリッドシステムはどのような変化をもたらすのか、あるいはもたらさないのか。ミド・オハイオの次戦、アイオワ・スピードウェイでのダブルヘッダーでそれは明らかになるだろう。
シーズン後半のオーバルレースは、アイオワのダブルヘッダーに続いてゲートウェイ(WWTR)、ミルウォーキー(ダブルヘッダー)、さらには最終戦のナッシュビルとあるため、チャンピオン争いではハイブリッドマシンでいかにオーバルで速く走れるかが大きなポイントになる。
なお、昨年のゲートウェイでは史上初めてオーバルでもプライマリー(ハード)とオルタネート(ソフト)の2種類のタイヤが使われたが、今年のオーバルレースで使われるタイヤはどのコースでも1種類のみとなる予定だ。
シーズン後半へ向けて前代未聞の方向転換を迎えるインディカー。まずは次戦ミド・オハイオにてハイブリッド時代の新たな戦い方を、そして続くアイオワのダブルヘッダーではハイブリッドマシンでのオーバルバトルの状況を見ていく必要があるだろう。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)