バージニア州にある1周0.526マイルのマーティンズビル・スピードウェイを中心に、ショートオーバルやロードコースでの最適化を狙ったテストが続けられて来たというEVストックカーのプロトタイプは、その走行感覚の面でやはり「奇妙な印象をもたらす」クルマだという。
「マーティンズビルはエンジンの感触と音に大きく左右されるトラックで、回転数や音の減速度から、どのくらいの速度で走っているかがわかるんだ」と、NASCARの3大ナショナルシリーズで600戦近い経験を誇る開発担当のレーガン。
「コーナーを抜けて壁に近づくと、右側が見えなくても音の変化(反響)で距離が知れる。側面から出るエキゾーストが壁に跳ね返り、回転数と速度、さらにウォールへの距離を体感できる。でもこのクルマはそれがない。だから直線ではもっと意識して、レーストラック全体を使うようにしなければならなかったよ」
このABB NASCAR EVプロトタイプの全長は現行カップカーに対し約8インチ(約20cm)短く、重量は500ポンド(約230kg)ほど重い仕上がりとなっている。
「それでも回生機能については驚異的だ。減速度を非常にアグレッシブに調整して、ブレーキをほとんど踏まなくても瞬時に停止するようにできるから、これに慣れるのは大変だった。これまでは少し速すぎた場合、左足でペダルを踏む巧妙さで進入速度や姿勢を導いて来たが、その点は少し難しくなるだろう」と続けたレーガン。
「ノイズがないからタイヤのスキール音や振動など、これまでステアリングやシートから感じていたものが、文字どおり“聞こえる”んだ。だから頭の中では、聞こえたものと感じたものが『違うのでは……』と考え始める。だから、優れたドライバーであるためのスイートスポットとエッジを見つけるのに、少し苦労するかもしれない。そこが優れているのがトップの連中たる所以だけどね」
本来、NASCARはこのEVプロトタイプを2月初旬の『Busch Light Clash at L.A. Coliseum』の時期にデビューさせる予定だったが、週末のイベントが悪天候のため極端に短縮されたことから、初披露を見送る判断を下していた。
将来的に「そのアイデア(電動化)を完全に否定するわけではない」としつつ、現在のところNASCARは、このEVプロトタイプが現行Next-Gen規定カップカーや内燃機関に取って代わるものではなく、また新しいシリーズの計画もないと強調し続けている。

