ここからは、シーズン序盤戦へと話を移そう。開幕戦セントピーターズバーグのコースは、空港の滑走路と公道を組み合わせたフラットなストリートコース。第2戦はコーナー数の多い常設ロードコースのサーマルクラブで行われる。
ここで両レースの優勝候補を挙げてみる。まずセントピーターズバーグはスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー/シボレー)そしてサーマルクラブはアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)だ。そして、両コースで優勝争いに絡んできそうなおもしろい存在としては、コルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル/ホンダ)がいる。
注目したいのは、マクラフランは2023、2024年と2年連続で年間ランキング3位となっていること。しかも、この2年とも強豪チーム・ペンスキー内でランキング最上位だった。ウィル・パワー、ジョセフ・ニューガーデンといったビッグネームより成績がよかったということで、ニュージーランドからやってきたツーリングカーチャンピオンでもある彼は今や、インディカーチャンピオンの座を掴み取れるだけの力を身につけている。

なお、昨年のセントピーターズバーグはニューガーデンがウィナーだったが、プッシュトゥパスの違法改造・使用があったため失格とされ、優勝はパト・オワード(アロウ・マクラーレン/シボレー)のものとなった。
ここで、このオワードの2連勝はあるのかどうかを考えてみるが、ランキング5位となった昨年よりも今年はパフォーマンスが下がるのでは? との心配をしている。昨シーズン終了直後にチーム代表だったエンジニア出身のギャビン・ウォードが解雇され、シーズン開幕直前になってドライバー出身のトニー・カナーンがトップに立つ新体制となった。グラグラし続けてきているチームのマネジメントの安定と強化をカナーンは実現できるのだろうか。
それに加えて、マクラーレンはドライバーの布陣も安定しない。2020年の彼らはオワードとオリバー・アスキューの若手コンビだったが、その後アスキューはローゼンクヴィストに代わり、さらにアレクサンダー・ロッシを迎えたが2年で離脱。さらに後任のデイビッド・マルーカスは開幕前に怪我をして解雇の憂き目。その空席を埋めるよう雇い入れられたテオ・プルシェールも突然契約打ち切りとなり、さらなる若手ノーラン・シーゲルの新規採用……。オワード以外のメンバーは目まぐるしく次から次へと交代してきている。
■パロウ擁するチップ・ガナッシ・レーシングは盤石の体制に
一方、ホンダエンジン勢筆頭の強豪チップ・ガナッシ・レーシング(CGR)は、“名参謀”マイク・ハルが現場の陣頭指揮を取る。チームとしての実力はペンスキーと並ぶ高さ。モチベーションは高く、規律も取れている。そんなチームで走るパロウはとてつもなく速く、ミスをせず、逆境に陥っても絶対に諦めない精神力の強さを武器にタイトルを獲得した。
CGRは今年に向けてチーム体制を縮小したが、それも彼にとっては大きな悪影響とはならないだろう。なぜなら、同じホンダ勢のメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)と技術提携したからだ。今季のMSRには、昨年までCGRで走っていたマーカス・アームストロングと、2020年までCGRにいたフェリックス・ローゼンクヴィストがおり、彼らがほぼチームメイトと同等の存在となることで、収集データは質・量ともに充分なものを得られる。
また、パロウからすれば大先輩のスコット・ディクソンもあわせ、マシン・セッティングに関しては高度なディスカッションがなされることでレベルの高いマシンを作り上げることができそうだ。オーバルでの勝利がいまだないパロウだが、初勝利を飾るのは時間の問題。5年間で4回目、そして、3年連続のチャンピオンとなる可能性は充分にある。

最後に注目のルーキーとして、ロバート・シュワルツマン(プレマ・レーシング)の名前も挙げておきたい。フェラーリF1の元リザーブドライバーはインディカーへの対応もスムーズにこなすと見られる。チームもインディカー初挑戦という状況は理想的ではないにしろ、ヨーロッパの幾つものシリーズで活躍してきたプレマはアメリカのレースにもすぐさま順応することと期待されている。
(Report by Masahiko Amano / Amano e Associati)