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投稿日: 2018.09.07 16:07
更新日: 2018.09.07 18:45

佐藤琢磨を長年追う松本カメラマンが明かすポートランド戦“勝利の秘策”


海外レース他 | 佐藤琢磨を長年追う松本カメラマンが明かすポートランド戦“勝利の秘策”

 そして、見事優勝を手にした。レース後、琢磨はレース戦略の種明かしをしてくれた。

「予選が終わった後に、エディ(ジョーンズ)と話して、クルマの足回りはほぼ決まっていた。クルマは決して悪くなかったんです。エアロバランスだけ日曜の天気を見て決めようと思っていました」

「エンジニアたちがいろいろシミュレーションしてくれて話したんですけど、2ストップでいくのはペースも落ちるし難しいと。必ず1回イエローがなくちゃいけないし、ずっとグリーンの可能性もあるから。でも3ストップでいったところでなかなか抜けないし、15位になるのが精一杯なら、2ストップに賭けようって。僕はずっとそのつもりだった」

「実はレースはダウンフォースを少し削ってるんです。僕より削ったクルマはなかったんじゃないかな。どうしてかと言うと、2ストップだとしたら、前のクルマのスリップに入って引っ張ってもらうんだけど、単独走行になる時間が必ずあって、その時にすごく燃料を消耗するんです」

「だから、ダウンフォースを削って抵抗をなくした。またそうすることによって、ターン1と高速シケインの10~11で抜かれなくなるし、ターン6~7の進入で抑えさえすればなんとかなる。その自信はあったから」

「ライアン(ハンター-レイ)との勝負になって彼の後ろにいた時に、彼は逃げたけど無理には追わなかったんです。追えば最後のスティントで燃料が厳しくなるから。彼は僕が燃料をセーブしているのを知っているから、ピットストップでのマージンを稼ぐために逃げたんでしょうね」

「最後のピットは彼が先に入ったし、僕がピット終わって出た時には彼の前に出られた。あれが勝負のポイントだった」

「トップに立った時も、98%くらいの走りでタイヤを労わりながら走ってました。彼は最後に必ずアタックに来ると思ったし、そうなった時にタイヤが終わっていないように。ダウンフォースを削った分、タイヤには負担がかかるので、そこは注意しながら走ってましたね」

「プレッシャー? 長いことレースしてますからね。いい緊張感の中で最後はバトルを楽しんでましたよ(笑)」

「無線でチェッカードフラッグ!って、言われたんだけど、その後ろでピットのみんながキャーキャー言ってるのが聞こえたんで、うれしかったけど、思わずプッ!吹き出しそうになりましたよ……」

 勝者は雄弁なものかもしれないが、琢磨のコメントが、レース前の我々の疑問をひとつずつ解きほどくようで面白かった。

表彰台の真ん中で飛び切りの笑顔を見せる佐藤琢磨

 インディカーでこんなレースをするのは、スコット・ディクソンか、エリオ・カストロネベスかと思っていたが、まさか勝利をさらうとは思っていなかった。良くて5~6位くらいかと。2ストップ作戦を取ることを想像していたにしろ、仰天の結果だった。良い意味での琢磨の裏切りだった。

 冒頭に書いたように琢磨の過去の2勝は、ロングビーチもインディ500も予選までに完全にクルマを仕上げ、予選グリッド前方からのスタートだった。予選20番手からの優勝なんて、琢磨の長いキャリアでも初めてのことだ。

 初めて走ったコースでいきなり優勝というのは、強いて思い出せるのは2000年にフランスF3に遠征し、スパで優勝した時だろうか……。

 そんなことなど、いろいろ思い出しながら長いフライトに乗って日本に帰ってきた。


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