決勝レースは、予選日までより少しだけ気温、路面温度とも高いコンディションになっていた。レッドタイヤのパフォーマンスに関しては未知の部分も多く、ブラックタイヤの安定感に信頼性の高さを感じているエントラントは多かったようだった。
しかし、琢磨陣営はどちらかというとレッドタイヤに期待を持って戦う意向だった。スタートにはブラックを投入し、短いスティントでレッドへとスイッチし、空いたコースで全力プッシュして上位進出のチャンスを窺おうというのだ。
琢磨はスタート直後のターン1での混乱も問題なくクリアし、17番手まで順位を上げたが、8周でピットに向った。もちろん出走22台中の一番手だ。しかし、最初のフルコース・コーションが出されたのは15周目と希望していたより遅く、約半数のドライバーたちがすでに1回目のピットを終えていた。この時点でまだピットしていなかった不運な面々は、イエロー中に給油とタイヤ交換。この時、すでに8周も走っていた琢磨は二度目のピットストップに呼び入れられ、順位は最後尾近くまで下がった。早目のピットインという作戦は失敗に終わったのだった。

■作戦が当たり上位に進出するも……
しかし、このミスを帳消しにするチャンスがレース終盤になって舞い込んで来た。39周目に出されたコーションで、琢磨の作戦をコールするラリー・フォイトはステイアウトを指示した。ほぼ全車がピットに向ったが、ゴールまで無給油で走るのは難しいタイミングだったため、自分たちもどうせもう1回ピットする必要があるのだし、他と異なる作戦に打って出ようと考えたわけだ。この作戦で琢磨は15番手から2番手に大きくジャンプアップした。
こうなると、トップに躍り出てレースをコントロールする意欲さえ沸いたが、リスタート直後のバスストップ・シケインまででカルロス・ムニョスを攻略し切れなかったことで走行ラインが乱れ、4台に先行を許した琢磨は6番手に順位を落とした。それでも上位フィニッシュのチャンスは十分にある状況で、琢磨は前を行く5台に食らいついていった。
ゴールまで12周というところで琢磨はピットイン。最後の給油とタイヤ交換を行った。コースに戻ると順位は16番手まで下がっていたが、レース再開以来コーションはなく、多くのライバルたちは燃料セーブでペースが上がらなくなっており、ゴールを前に短い給油が絶対に必要というチームの存在も明らかになってきた。
ゴールまで持つだけの燃料を補給している琢磨は、追い上げをスタート。ゴールまで2周という時点で8番手にまでポジションを上げていた。前をいくのはポイントリーダーのサイモン・ペジナウ。
彼をパスすれば7番手に浮上できる。オーバーテイクのために相手をセットアップしょうとターン7では少しアウト側へとラインを取った。そこで僅かにラインがワイドになり過ぎたのか、タイヤかすを拾ってスピン。クラッシュは避けたが、順位を17位にまで下げての失意のゴールとなった。ゴールを目の前にして2番手を走っていたジェイムズ・ヒンチクリフがストップ。琢磨はペジナウさえパスできていれば、残り燃料の不足に喘ぐドライバーたちをもうひとりかふたり抜き、トップ5でのフィニッシュさえ可能だった。
「フルコースコーションが3回出され、自分たちは最終的に良い戦略を選ぶことができました。レース序盤には戦略がうまくいかない状況もありましたが、終盤にチームが下した判断は正しかったですね。ゴールまでの最終スティントではライバルたちが燃費セーブに陥っていたので、自分たちはチャージができる状態となり、ひとりずつ攻略していくことができました」
「そして、あと2周となったところでペジナウをパスするチャンスになり、ターン7での脱出を有利にするために通常よりインから進入したんですが、タイヤかすに乗ってコントロールを失い、スピンしてしまいました。好結果が得られるところだったのに、レースをまとめ上げることができなかった。スポンサーやメカニックたちに申し訳ない気持ちです」
シリーズで最もスムーズな路面のロードコースとなり、驚異的な速さを誇るようになった新生ワトキンス・グレン・インターナショナルに琢磨はおおいに感銘を受けていた。チャレンジのしがいのある素晴らしいコースとの印象を強く持っていた。ところが、予選と決勝の両方でスピン。最近ではほとんど見なかった光景だ。このような週末となったのは、マシンの煮詰めがあと一歩だったのと、琢磨のコースに対する思い入れが少々強くなり過ぎていたからだったかもしれない。
今シーズン残すは最終戦ソノマのみ。琢磨は、どんな走りを見せてくれるのだろうか?