更新日: 2020.05.01 21:48
突然のアウディDTM活動終了を考察。2021年からのDTMはどうなってしまうのか?
では今後、DTMはどうなっていくのだろうか。いくつかのパターンが考えられるが、どれも多くの課題があるだろう。
・GT3への転換
ネット上にはGT3カーに切り替えればいいという案も聞かれるが、ほぼ可能性はないだろう。そもそも、ヨーロッパではカテゴリーごとの区別が明確で、ツーリングカーレースはツーリングカーレース、スポーツカーレースはスポーツカーレースなのだ。一時、GTアソシエイションの坂東正明代表が「ル・マン24時間にGT500のチャンピオンを出させて欲しい」とアプローチしたことがあるが、当時すでにGT500とDTMと規定統一の話が進んでおり、ル・マン側の認識は「GT500はツーリングカーではないのか?」というものだったくらいだ(これはこれで認識不足なのだが)。
またすでに、ドイツにはADAC GTマスターズという非常に盛況なGT3カーレースが存在する。ヨーロッパ全体に舞台を広げたところで、こちらも盛況のGTワールドチャレンジ・ヨーロッパがあり、今さら新しいGT3レースが生まれたところでニーズはほぼないだろう。
ちなみに坂東代表は「ドイツでもスーパーGTをやればいい」と語ったこともある。DTMマシンにADAC GTマスターズのGT3カーを混走させれば、GT500とGT300が混走するスーパーGTのようなレースができあがる。6台のBMWとGT3が混走すればレースにはなるかもしれないが、ただこれもまた、ヨーロッパの文化を考えるとハードルは高い。DTMはワークスによるツーリングカーレース。ADAC GTマスターズはカスタマーによるGTカーレースだからだ。
さらに言えば、ドイツメーカーは自社内の“序列”が崩れることは嫌う。例えばDTMカーのアウディRS5 DTMが、やすやすと自社を代表するスポーツカーのアウディR8 LMSを抜いていくことはメーカー内ではあり得ない構図だという認識が強い。
・TCRへの転換
DTMがツーリングカーレースとして継続するならば、近年世界的に隆盛を誇っているリーズナブルなTCR規定を採用するという手段もあるかもしれない。しかしこちらもまた、ドイツ国内にはTCRジャーマニーというシリーズがあり、隆盛を誇っている。
同じカテゴリーのレースを立ち上げたところで、あまりファンやスポンサーへの訴求はないだろう。またこれまでDTMを見慣れてきたファンにとってTCRはやはり別物。そもそもTCRはカスタマー向けレーシングカーであり、DTM自体の収益構造が根本から変わってくるはずだ。
・BMWだけで1〜2年をしのぐ&日本メーカーやプライベートアウディの参戦を促す
アウディの撤退により、残されるかたちとなったのはBMWのみとなってしまうが、BMWの6〜8台のレースで開催数を減らし1年、もしくは2年をやり過ごしつつ、新規参戦メーカーを募ったり、なんとかアウディがプライベーターの使用を認めるよう要求する案も考えられるだろう。
またその間、非常に困難かもしれないが、年に1〜2度でもスーパーGTマシンを招聘しファンの関心をつなぎ止めるということも手かもしれない。少なくとも、BMWとしては現行のM4 DTMは2019年にデビューしたマシンで、3年間は使いたい意向があるはずだ。
とはいえ、これらはあくまでファン目線の期待でしかない。先述のとおりヨーロッパは今後ガソリンエンジンを使用することが非常に難しくなってくる。1〜2年待っても別のメーカーが登場するのは考えづらい。
・E-DTMへの転換
現行のクラス1規定は、シルエットフォーミュラとしては優れたシャシーで、メーカーや車種ごとの不公平が極力生まれないような規定となっている。非常に困難な道程とは思うが、これをベースとして1〜2年の準備期間をおき、クラス1シャシーと電気エネルギーを使ったレースに転換することが5〜10年先を見据えると考え得る選択肢かもしれない。
クラス1規定は市販車の形状を色濃く残すことができるだけに、ドイツ各メーカーが参戦するフォーミュラEの知見を活かし、うまく開発することができればふたたびメーカーの興味を呼び戻し、さらなる参戦メーカーを呼ぶことができるかもしれない。もちろんハードルは非常に高い上に、スーパーGTとのコラボレーションはふたたび絶たれてしまうかもしれないが、現段階では最も困難ながら有効な方策ではないだろうか。
いずれにしろ、アウディの活動終了によりDTMの2020年は大きな歴史の転換点となってしまった。今後DTMがどんな方策を繰り出すのか、注視しなければならないだろう。