更新日: 2020.07.15 12:10
2016年ロンドンe-Prix、フォーミュラEをファンの視点で感じたい【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】
Translation:AKARAG
コースに到着したが変な感じだった。まるで公園の音楽イベントに行くような雰囲気で、モーターレースだという感じがしない。私は高速セクションの上にグランドスタンドへの通路を見つけたが、従来のグランドスタンドは展望台が設置されるものであるのに対し、ここには座席がなかった。
さらに、展望エリアはスタート/フィニッシュラインの近くにあったが、サーキットのレイアウトのせいで実際にスタートラインを見ることができない。
これが予選だけならばあまりたいしたことではないが、重要なのはキャッチフェンスと周囲の木々があることで、ほとんどコースが見えないことだ。唯一目にできるのはマシンがストレートラインに向けて通り過ぎる姿だけだった。
私は展望台の一方の端へ行き、正面の手すりに寄りかかりながら大きなスクリーンでレースを見ることにしたが、サーキットにいるにもかかわらずテレビでレースを見るために多大な努力を払わうことになってしまった。
なんとかレース展開を知る手助けにとラジオを借りていたが、これもきちんと動作しない。そして状況を悪化させたのは、予選でマシンがスタンドを通り過ぎると大量の埃と砂つぶが舞い上がり、目に入ってしまうことだった。
せっかく見つけた屋根のない展望台は最終的に予選時に少しだけ雨も降り、正直なところ快適な状況とは言えなかった。
もうひとつとてもがっかりしたことはマシンのスピードだ。アガグがパブリックスペースからレースを見るように言ったのは、マシンが遅く見えるという私の批判に応えてのことだったはずだ。
それにもかかわらずコース上のマシンはとても遅そうだった。私は自分の考えが間違っていたことを願っていたが、残念ながら間違えてはいなかったことを実感してしまった。
動かないラジオに垣間見ることしかできない大型スクリーン。誰がどこで予選を通過したのかを知るのが困難な状況だったために、結局私はパドックにタイムシートを取りに行くことになった。
タイムシートを見て初めて、ニコラ・プロスト(ルノー・e.ダムス)がポールポジションを獲得したことを知った。彼に続くのはマヒンドラに所属するブルーノ・セナだ。ロンドンの公園でプロスト対セナの戦いが行われる。そこだけなら非常に注目すべきだと少しだけ気持ちが上向いた。
唯一の救いだったのは参戦ドライバーたちのレベルが非常に高いことだ。当時はルーカス・ディ・グラッシ(アウディ)、ジャン-エリック・ベルニュ(DSバージン)、ニック・ハイドフェルド(マヒンドラ)、ステファン・サラザン(ベンチュリ)、ジェローム・ダンブロシオ(ドラゴン・レーシング )、セバスチャン・ブエミ(ルノー・e.ダムス)、ネルソン・ピケJr.(ネクストEV TCR)といった多くの元F1ドライバーが参戦していた。
元スーパーGTチャンピオンでル・マン24時間優勝経験者のロイック・デュバル(ドラゴン・レーシング )もグリッド上にいたが、私はこのドライバーたちの力量では、遅いマシンに少々退屈してしまうのではないかと思わずにいられなかった。
しかし、パドックで何人かのドライバーたちに話を聞くと、彼らは確かにマシンは非常に遅いとは感じているが「レースは接戦だ」と言う。賞金も十分に支払われていることもあり、このシリーズやマシンを公然と批判したがらないのだ。
パドックではレースを見に来ていたジェームズ・ロシターとスーパーGTについて長く楽しい会話をしたことも覚えている。そのとき、ロシターは明らかにフォーミュラEのマシンに興味は持っていたが、参戦することに興味があったという印象は受けなかった。
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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。