MGU05の技術的な特徴を列記すると次のようになる。モーターは内側ローターコンセプト(外側がステーター)。外部マグネット(内部に埋め込んでいない)で、効率的な冷却システムを備えている。交流モーターなのはもちろんだが、量産電動車両で一般的な3相交流ではなく、6相交流システムなのが特徴だ。
ポルシェがル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含むWECに投入していた919ハイブリッドも6相交流モーターを採用していた。6相交流は3相交流に比べて制御性が高いのが特徴だ。
公開されたMGU05の写真を見ると、インバーターの上にMGUが載った状態になっているが、車両搭載時はバッテリーの背面にインバーターが張り付き、その後方にMGUが位置するレイアウトになる。
つまり、写真の奥のほうに90度倒した状態が正規の搭載状態だ。MGU05はCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のギヤボックスケーシング内に収まる。テクニカルレギュレーションでは、ギヤボックスの変速段は最大6まで認められているが、シーズンを経るごとに段数が減り、シーズン5以降は全車がシングルギヤを採用している。
低速から高速まで効率良くカバーするには複数段のほうが有利だが、段数が増えれば重量増につながるし、F1と違ってアップシフト時のトルク切れを解消するシームレスシフトは禁止されているため、トルク切れによる失速が避けられない。
一方、シングルギヤで低速から高速までカバーする場合はモーターの体格が大きくなりがちだ。しかし、そのデメリットを考えに入れても総合的に考えればシングルが有利との考えに落ち着いている。アウディに関していえば、シーズン2と3は3速で過ごしたが、シーズン4でシングルギヤに切り替え、現在に至っている。

MGU05の開発コンセプトは、軽量化と高効率化だ。前型の重量は明かされていないが、MGU05の重量は35kg以下、システム効率は97%以上と発表されている。ドライブトレイン全体の効率は95%以上ということだ。
効率が重要なのはいうまでもない。なぜなら、レース中に使用できる電気エネルギーは52kWhに定められているからだ。1%の効率は0.52kWh分のエネルギーに相当する。少しでも効率を上げて、走りに使えるエネルギーを増やしたいのだ。
2016/17年王者であるアウディのルーカス・ディ・グラッシは、「残念ながら、効率の向上を体感するのは不可能。本当に小さな差でしかないからだ。それより、エネルギーマネジメントがレース結果に与える影響は大きく、入念に準備していきたい」とコメントした。
軽量化は前後重量配分を適正化する意味で重要だ。最低重量と実重量との差を大きくし、浮いた分をバラストに充てたい。スチールではなくカーボン製ドライブシャフトを採用しているのも、前後重量配分適正化の観点からだ。
「時間をかけて入念に準備してきたので、コロナ禍でもシーズン開幕に開発を間に合わせることができた」とマクニッシュ。シーズン3以来のドライバーズタイトル、シーズン4以来のチームタイトル獲得なるか、自社開発の新パワートレインを採用したアウディスポーツ・アプト・シェフラーの走りに注目だ。
