モナコ在住の佐藤万璃音、FIA-F2で挑んだ“未知”のホームレース【独占インタビュー】
──モナコに住んでいても、あの公道コースを走るのは初めてですね。
「ええ。ですからその直前、スペイン・バルセロナに住んでいるトム・ディルマンの自宅を訪問し、シミュレータートレーニングに励みました。もちろんトライデントのシミュレーターも経験しました」
──ところで、フリー走行でのトラブルは何だったのでしょうか?
「そもそもはフリー走行で45分間走り込み、予選ではコース攻略を完全につかみきれないながらも限界まで攻めて、決勝ではタイヤの状態やクルマの重量との兼ね合いから、一歩二歩引いて走ろうと考えていました」
「でも、実際のところフリー走行では決勝用タイヤの皮むきを終えて、タイヤを履き替えてプレパレーションラップに出た直後のメインストレートで排気系のシステムエラーに見舞われてしまいました。一度もレーシングスピートで走っていないので、いきなりの予選で目一杯行くのは無理です。さらに決勝では、燃料満タンで限界を探らなくてはいけないのでかなり苦労しました」
──予選タイムは1分24秒091で、18番手からのスプリントレース1は19位でした。
「クルマ自体のアンダーステアも相まって、左フロントタイヤのデグラデーションがひどかった。ほかのクルマはそうした症状が出ていませんでした。セーフティカーのタイミングでピットへ入りタイヤを交換しても良かったのでしょうが、スプリントレース1の結果が同レース2のスターティンググリッドになる規則なので、そのまま耐えてトラックにステイしたほうがポジションはひとつふたつ上で終われるだろうと判断しました。ただ、左フロントタイヤはラバーをほとんど失っていて、最後はサン・デボーでぶつかってしまいました」
──スプリント・レース2は再びサン・デボーでリタイアでした。
「スタート直後の第1コーナー(サン・デボー)で左から当てられてタイロッドがダメージを受け、ステアリングを左に45度くらい切っていないと真っ直ぐ走れない状態でレースしていました。それでもラップタイム、ペースはだんだんと上がり、ブレーキングでも攻め込めるようになった」
「ただ、やはりステアリングが普通ではなかったので最後は限界を超えてしまい、第1コーナーのエスケープへ逃げるしかなかった。クルマの向きを変えてトラックへ戻りたかったけれど、ステアリングがちゃんと切れなかったのでクルマを降りるしかありませんでした。最後は第1コーナー奥のサン・デボー教会でお祈りしてきました」
──14位で終えたフィーチャーレースを簡単に振り返ってください。
「スタートが良くなくて順位を落としてしまいました。先行するクルマよりもペースは良かったけれど、あの狭いトラックでは抜けません。そこで大きくタイムをロスしてしまった。前のクルマがピットインしたのでオーバーカットするためプッシュしたけれど、やはり左フロントタイヤのグレーニングがひどかった」
「だからピットインしてオプションタイヤからプライムタイヤへ履き替えました。ただ、内圧の問題か最初の2、3周はまったくグリップしなかった。気温が低かったのも相まってそこでのロスは痛かった。レース終盤、最終コーナーへ差し掛かるところでバーチャルセーフティーカーが出て、その瞬間にピットインを判断、オプションタイヤへ履き替える判断は良かったと思います」
──そのフィーチャーレース終盤で良い見せ場を作ってくれました。
「レース終盤は、おそらく僕と周冠宇(ユニ・ヴィルトゥオーシ)が比較的新しいオプションタイヤを履いていたはずです。最後はファステストラップ(FL)を狙いに行きました。もちろん、入賞しなければFLの選手権得点を手にできないのは承知の上です。まともに戦えなかった予選でどれだけの速さを自分が引き出せるのか? それを確認する意味でも必要でした」
「結果的にFLを獲得した周から0.037秒後れの2番手に終わりましたが、自分の予選タイムに比べて2秒以上も速かった。やはり、フリー走行を走れなかったのは痛く流れが悪い週末でしたが、最後に良いペースで走れたし、FL争いは楽しかった」
──それではモナコでのレースウイークを総括してください。
「いまのFIA-F2マシンはクルマが大きくて重い。僕がこれまで経験した公道コースはすべてF3マシンだったから、大きく印象が異なりました。FIA-F2マシンはリアエンドが重いので、向きを変えるのはひと苦労。F3マシンのように攻めて攻めてという走りはできない」
「たとえばマカオのギア・サーキットは好きで、マカオGPのF3レースはフリー走行が50時間くらいあるじゃないですか?(編集注釈:実際は木曜40分間と金曜40分間の計80分間。走行機会がFIA-F2よりも多いという万璃音選手なりのジョーク) だから誰でもそれなりのところまでは行ける。でも、モナコに関してはフリー走行が45分間だけで、自分は1周もまともに走れなかった。それに尽きます」
──次のバクーも初体験の公道レースとなりますが、抱負を聞かせてください。
「まずはシミュレータートレーニングですね。スピードが速い区間が多く、その一方でスピードが低いヘアピンもあって、ドライバーはいろいろな技術が求められます。現状、僕らのクルマはアンダーステアが消えておらず、原因を突き止めないといけません」
「チームメイトもアンダーステアを訴えていますが、彼はそれほど苦労していないようです。いずれにせよ、公道コースは苦手ではありません。実際、2018年のマカオGPで僕は予選7番手でした。バクーは初めてですが、特に不安を感じるわけではなく逆に楽しみにしています」