更新日: 2021.06.17 13:51
TOYO TIRESニュル24時間耐久レース、2年目の挑戦。 過酷な悪天候を乗り越え、確かな“手応え”を掴む
2021年のニュル24時間は、ドイツ国内の新型コロナウイルス感染者が一定の減少傾向にあること、そしてレースの開催直前に地元ラインランド・プファルツ州の大規模イベントに関してのロックダウン緩和措置が発表されたことで、最大1万人の観客動員が許されることとなった。
例年であれば、20万人以上の観客動員数を誇るニュル24時間だけに、案の定、1万人分のチケットは発売されるや否や早々に完売したという。いかに多くの“ニュル”ファンが現地での観戦を心待ちにしていたかということがよくわかるエピソードだ。
また、昨年はコロナ禍の影響を受けてエントリーが97台と大きく減少したが、今年は122台に増加。140台以上を集めた以前ほどではないが、パドックの賑わいも徐々に戻ってきたように感じられた。
ニュル24時間のレースウィークは、6月3日の第1予選で幕を開けた。ニュル24時間は、ノルドシュライフェとグランプリコースを合わせた全長25km以上になるコースで争われる。前日までの快晴とは打って変わり、不安定な天候になったこの日、コースは局地的にウェットになるというニュル独特のコンディションに見舞われることとなった。
同日夜にはナイトセッションの第2予選が行われた。ニュルブルクリンクは、北海道よりもさらに緯度が高いため、夏時間の日没は22時前とかなり遅い。太陽が沈むとノルドシュライフェは、一気に暗闇に包まれる。
青色や緑色など明るい眼球を持つ欧米人に比べると、黒い瞳のアジア人は夜間視力がやや劣ると言われている。それゆえ、日本人ドライバーにとってナイトセッションは、目を慣らすためにも重要な機会となる。
Novel Racing with TOYO TIRES by RING RACINGの72号車トヨタGRスープラGT4と、54号車レクサスRC Fの2台は、1年ぶりとなるニュルの感触を確かめるかのように、昼夜のセッションで精力的に周回を重ねた。
翌6月4日には第3予選が実施された。2日にわたる予選を終えて、72号車トヨタGRスープラGT4は総合70番手、54号車レクサスRC Fは総合80番手のグリッドが決定した。
6月5日、決勝レースの日を迎えたサーキットの上空には、真っ黒な雲が立ち込めていた。湿気を含んだ冷たい風が肌を冷やし、間近に嵐が迫っていることを予感させる。
そんな中、15時30分、いよいよ24時間に及ぶ過酷な戦いの火蓋が切って落とされた。72号車トヨタGRスープラGT4、54号車レクサスRC Fの2台も24時間後のゴールを目指し、グランドスタンドに詰めかけた1万人の観客の拍手に包まれながら、ホームストレートを駆け抜けた。
しかし、まるでスタートを待ち構えていたかのように厚い雲から雨粒がこぼれはじめ、アスファルトを激しく濡らしはじめた。アーレンベルクでは、まるで氷の上を滑るように次々にマシンがスピン。太陽光が雲に遮られ、薄暗くなったノルドシュライフェでは路面状況を見極めることすら難しくなり、レース序盤だというのに、総合優勝候補のマシンでさえもアクアプレーニングの餌食となってしまった。
いつ赤旗が降られてレースが中断してもおかしくないような危険な状況だ。コースの3分の1は、速度制限区間『コード60』に。そんな厳しい状況下のなか、Novel Racing with TOYO TIRES by RING RACINGの2台は、慎重に周回を重ねていく。
途中、72号車トヨタGRスープラGT4のドライブシャフトにトラブルが発生してピットイン。しかし、大事に至ることはなく、素早く修復してコースに復帰する。
悪夢のような混乱を招いた激しい雨は少しずつ弱まり、路面は徐々に乾きはじめた。ところが、今度は厚い雲の中にいるかのような濃い霧が立ち込めていく。日没が近づくにつれてさらに霧は深くなり、視界はドライバーがポストのフラッグを識別できない程に悪化していく。
結局、レース開始から6時間が経過した21時30分に赤旗が降られることとなった。この時点で54号車レクサスRC Fは、なんとSP8クラスのトップを独走していた。それだけにレースの水入りは、残念な出来事だった。
54号車レクサスRC Fのドライバーのひとりである松井猛敏は、このニュル24時間がTOYO TIRESのタイヤを履いたマシンの初ドライブだったという。「エンジニアやチームメイトからはタイヤに関して丁寧に説明があり、そのおかげで、すぐにタイヤの性質を理解できました。自分のスティントでは、耐久レースならではのタイヤの使い方に集中し、着実に周回数を重ねて次のチームメイトにバトンを繋げられるように努力しました」
レースオフィシャルは、翌6日の朝6時に情報のアップデートを行うとアナウンス。少なくとも7時前までには、レース再開は見込めないということだ。この赤旗中断中は車両保管期間とされず、チームは自由にマシンの修復や整備に充てることが許可された。
一夜が明け、6時になった時点でもニュルを包む濃い霧は一向に晴れる兆しを見せない。天候の回復を待ちながら何度もディレイを重ねた結果、赤旗提示から14時間半が経過しようかという12時にようやくレースは再開された。72号車トヨタGRスープラGT4は総合53番手、54号車レクサスRC Fは総合46番手からのリスタートだ。
実質3時間30分弱のスプリントレースとなり、コースの至る所で激しいバトルが繰り広げられた。視界は改善されたものの路面は滑りやすいままで、優勝候補が次々と姿を消していく荒れたレースとなった。
72号車トヨタGRスープラGT4のステアリングを握った東 徹次郎は、今年のタイヤの進化を感じ取っていた。「スリックタイヤは昨年よりもグリップ性能が抑えられていました。実はこれはニュルの特性を考慮したもので、そのおかげでドライバーとしては非常に“分かりやすい”タイヤに仕上がっていました。タイヤのマネージメントもしやすくなり、全体的なパフォーマンスアップを実感できました」
一方、54号車レクサスRC Fは、追い上げてきたライバルと息を呑む激しいクラストップ争いを繰り広げていた。
そんななか、54号車レクサスRC Fを悲劇が襲う。前方を走る他車のクラッシュを避けようとした結果、自身にもダメージを負ってしまったのだ。
ドライバーからの無線連絡を受け、メカニックたちは素早く修復準備を整える。Novel RacingとRING RACINGのタッグは7年目に入り、阿吽の呼吸でいかなるトラブルにも冷静に対処できる強さを持っている。
54号車レクサスRC Fがピットに戻ってくるやいなや、張り詰めた空気の中で淡々と各自が作業に取り掛かり、抜群のチームワークで、マシンを素早くコースへと復帰させたのだった。
やがて、時計の針は15時30分(日本時間22時30分)を告げ、ニュル24時間の決勝レースは幕を閉じた。54号車レクサスRC Fは総合54位(SP8クラス2位)、72号車トヨタGRスープラGT4は総合64位(SPクラス6位)でチェッカーフラッグを受けた。