そんな手探りの状態でも、最終的にはエンジンチームで1000枚以上の図面を書き、車体開発チームも剛性や耐久性能、クラッシュ時の想定解析、そして風洞テストなどを同時並行させながら設計を行い、約半年でマシンを作り上げた。
エンジンはS660の最高回転数7700rpmをボア×ストロークを変更して1万0000rpmまで上げ、ターボはF1に匹敵する3bar以上の高過給圧を設定し、ベンチテストで250馬力の最高出力を実現させた。その中でも特に配慮したのが、マシンの安全性だった。
「メーカーとして参戦するからには安全性の確保は必須です。その対策を行いながらエンジン、車体を設計してテストしながら解析して、また設計に反映させてと、いろいろなものを同時並行で行っていたので、途中で何がどうなっているのか分からなくなる状況もありました(笑)。時間も人も本当に限られた中での開発でしたが、2カ月遅れで完成することができました」

当初予定された3月から遅れて、5月にS-Dreamは完成。早速、シェイクダウンのテストを迎えることになったが、プロジェクトリーダーの蔦エンジニアには、ある自信があった。それはポジティブな自信ではなく、ネガティブなものだった。
「シェイクダウンは最初、絶対、トラブルが起きると思っていました(笑)。エンジンは掛からないだろうし、車体もトラブルが出ると。普通のクルマでさえ、シェイクダウンではマイナートラブルがいくつも出ますからね」
ところが、この予想は裏切られることになった。
「不思議と、まったくトラブルが出なかったんです。うれしいサプライズでした。F1でもスーパーGTでも、レースカーのシェイクダウンではプログラムを全部こなせるということはないと思いますが、S-Dreamは走る、止まるが普通にできて、予定していたテスト項目を奇跡的にすべて終えることができたのです。ひと安心しました」

暗中模索でスタートしたS-Dreamプロジェクトだが、ひとまず、半年でクルマを完成させることができた。そしていよいよ、ここからはアメリカでのテスト〜レース参戦となるが……蔦エンジニアをはじめとした16人のメンバーは、まさかの連続となる、過酷な現実に襲われることになったのだった。
後編へつづく