■晴天の中で迎えた四度目の“本番”。クラス優勝を強く誓って走り出す
5月20日(土)16時ちょうど、23万5000人の歓声が響き渡るなか、いよいよ24時間に及ぶ戦いの火蓋が切って落とされた。
前半戦、『TOYO TIRES with Ring Racing』の70号車トヨタGRスープラGT4と71号車トヨタGRスープラGT4 EVO 2023は、両車とも順調にスティントをこなし、着実にバトンを繋いでいく。




そしてアイフェル地方は次第に暗闇に包まれていき、ナイトセッションが始まった。“グリーンヘル”は一気に視界が狭まり、コースのあちらこちらで事故や接触が発生。ドライバーは警告の旗にも常時神経を尖らせなければならない。
レースが進むにつれ、路面には至るところにタイヤカスやオイル痕が散乱する。マシンの接触によって飛散した鋭利なカーボンの破片も厄介だ。それらを避けながらのドライブは非常にシビアで、さらなる事故を誘発する原因にもなっていた。

午前1時過ぎの順位は、70号車トヨタGRスープラGT4がSP10クラス10番手(総合58番手)、71号車トヨタGRスープラGT4 EVO 2023がSP10クラス4番手(総合40番手)。両者ともに淡々と周回を重ねながら、少しずつ順位を上げていく。


夜が明けると、ニュルブルクリンクはグランプリコースからノルドシュライフェまで全面的にすっぽりと深い霧に包まれた。幸いにも雨天にはならず、ドクターヘリの飛行も可能だということで、レースは中断されることなく続行された。しかし視界は極端に悪く、レース全体のペースは一気にスローダウンした。
完全に太陽が昇り切ると、ニュルブルクリンクを覆っていた霧はようやく姿を消した。しかし、それと同時に波乱がチームを襲う。それまでノーミスで乗り切っていた『TOYO TIRES with Ring Racing』だったが、70号車トヨタGRスープラGT4がCode60の警告を見過ごしてしまい、1分20秒のペナルティを受けてしまったのだ。

一難去ってまた一難とはこのことをいうのだろうか。午前10時を目前にしたタイミングで、木下がドライブする70号車トヨタGRスープラGT4が、一瞬のミスで右フロントをガードレールと接触させてしまい、ホイールハウスまわりを大きく破損してしまう。運悪く外れたタイヤが破損箇所にさらなるダメージを負わせてしまい、マシンは走行不能に。ゴールまであと6時間というところで、ゲームオーバーとなってしまった。
悲痛の声がピットで漏れたが、気を落としている場合ではない。こんなピンチな場面にも素早く対応できるあうんの呼吸が、TOYO TIRESとRing Racingの間には確実にできあがっていた。1台体制になった71号車トヨタGRスープラGT4 EVO 2023を何としてでもゴールさせるために、スタッフは素早く次なる対処の作業に入る。
そして、木下にはまだ71号車トヨタGRスープラGT4 EVO 2023のスティントが残っていた。木下はチームの期待に応えようと、強い眼光を取り戻して再び“グリーンヘル”へと走り出した。

時間の流れが早く感じられた今回の24時間だったが、最後の10分、5分はどれだけ長かったことだろうか。チームクルーは両手を強く握りしめ、祈るようにモニターを見つめる。71号車トヨタGRスープラ GT4 EVO 2023が無事にチェッカーフラッグを受けられるように……。彼らの願いはただそれだけだった。
71号車トヨタGRスープラ GT4 EVO 2023から無線で無事にバックストレートのデェッティンガーへーエを通過したことを知らされると、チームクルーは一斉にピットウォールへ駆け出し、71号車のゴールを笑顔と拍手で出迎えた。
『TOYO TIRES with Ring Racing』71号車のトヨタGRスープラGT4 EVO 2023は、25.378㎞を146周走り抜き、総合27位、SP10クラス5位に入賞を果たした。強豪揃いのSP10クラスにおいてクラス優勝を目指した4年目の挑戦も簡単な道のりではなかった。残念ながら目標には少し届かなかったものの、手応えは十分に掴むことができた戦いだった。
チーム内では誰も悔し涙は流していない。涙を流すのは、クラス優勝を飾った時だと決めている。ゴールの瞬間を見届けたスタッフたちは、疲労困憊しながらも、はにかむ笑顔で互いの健闘を称え、尊重し合った。

こうして今年のニュルブルクリンク24時間耐久レースは終わったが、その感傷にゆっくり浸っている間はない。NLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)の第4戦は6月17日。SP10クラスのシリーズチャンピオンを目標とした『TOYO TIRES with Ring Racing』の戦いは、これからも留まることなく続いていく。
* * * * * *
■『TOYO TIRES with Ring Racing』総監督/Ring Racing代表:ウヴェ・クレーン
「今大会は非常に順調で素晴らしい予選をこなし、上位を狙えるポテンシャルをもってスタートグリッドに並びました。十分に準備を重ね、マシンとタイヤのコンディションは非常によかっただけに、70号車のリタイアは非常に残念で仕方がありませんでした。強豪揃いのSP10 クラスのトップ5台は24時間中、常に同一周回で走行しており、かなりハードな戦いとなっていました。その中での5位入賞は喜ばしい結果ですが、私たちのポテンシャルならばもっと上の順位を獲得できたと確信しています。それだけに何としてでも来年はクラス優勝を遂げたい、それ以外の目標はありません」
■70号車 トヨタGRスープラGT4/71号車 トヨタGRスープラGT4 EVO 2023ドライバー:木下隆之
「ダブルエントリーは身体的にはタフですが、信頼の証として名誉なことと受け止めています。2台のスープラは微妙に特性が異なるため、順応するのが大変でしたが、なんとか乗り切ることができました。NLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)のデータを基に新デザインのウエットタイヤも用意されていたので、決勝レースで試したかったのが正直な気持ちですが、今大会は好天に恵まれて出番がありませんでしたね」
「一方で、スリックの『PROXES(プロクセス)』は路面温度がまずまず高いドライでも、路面温度が下がった夜間でもグリップがしっかり確保されていました。連続して8周を走行してもタレがまったくなく、摩耗トラブルもありませんでした。今年は特にハイペースのレースとなったのですが、トラブルの兆候もなく完璧な信頼性を示してくれました。例年以上の盛り上がりを見せ、コースサイドでTOYO TIRESの青い旗を振って応援してくれるファンの姿には特に感動しました」
■70号車 トヨタGRスープラGT4 ドライバー:ティム・サンドラー
「今年のレースは、総合的にみると順調だったと感じています。予選ではトラフィックに巻き込まれて、満足する結果ではありませんでしたが、何と言ってもレースは長いので、巻き返すことは十分に可能でした」
「ナイトセッションもタイヤのコンディションが安定していたので、大きなトラブルもなく着々とレースを進めていました。明朝にリタイアとなってしまったのは残念でしたが、EVOパッケージ未装着のトヨタGRスープラGT4で、SP10クラスのトップ10に入れていたことは、とても誇らしいことだと思います」
■71号車 トヨタGRスープラGT4 EVO 2023ドライバー:アンドレアス・ギュルデン
「私は4年前のプロジェクト発足当時からドライバーを務めており、メンバーの一員として共に戦ってきました。激しいレースを戦って、71号車は傷ひとつなくスタート時のままの姿でゴールできました。結果だけを見ると残念な部分もありますが、プロジェクト発足からこれまでのタイヤの開発の進化、チームの結束力や絆は、なによりも大切な財産となりました」
「ドライバーとしては、タイヤの性能の飛躍的な向上を実感し、厳しいバトルを繰り広げながらも、1周ごとに操る愉しさを噛み締めながら走りました。どの場面でもコンスタントにタイヤのコンディションが安定していました。来年に向けて、ニュルでクラストップを狙うためにもさらにチーム一丸となって、よりよいタイヤ作りができることを楽しみにしています」
■TOYO TIRES OEタイヤ開発部 モータースポーツチームリーダー:富髙 祐
「クラス優勝を目標に、十分に準備を重ねられたと認識していましたが、結果に関してはただただ悔しい、それに尽きるでしょう。SP10クラスのマシンは新型BMW M4 GT4やトヨタスープラGR EVO 2023が増え、勝つことが容易ではないと予想していました。しかし、そうした強豪たちとの戦いだからこそ勝つ価値や意味は大きいのです。それだけに、失望したと同時に力が及ばない部分が露見しました。私たちにとってニュルの壁は高く、力不足を思い知らされました。しかし、2020年の参戦再スタートから着実に成長してきている部分もあります。来年こそはクラス優勝を獲得するため、“勝つタイヤ”開発に精進してまいります」





