今シーズン2勝を挙げ、PPは5回獲得したアンドレッティ・オートスポート改めアンドレッティ・グローバル(AG)軍団。数字的にはCGRに次ぐホンダ勢2番手の座を保っている。しかし、F1進出も計画する彼らとすれば、2012年のライアン・ハンター-レイ以来遠ざかっているタイトル奪還、そして、2017年の佐藤琢磨以来となるインディ500優勝を目標に掲げて2024年シーズンを迎える。
2シーズンを戦いながら、ついに1勝もできなかった元F1ドライバーのロマン・グロージャンはとうとう放出。同じく2シーズン起用したデブリン・デフランチェスコとの契約も解消となった。
代わりに、2022年インディ500ウイナーであるマーカス・エリクソンを迎え入れ、担当エンジニアにはグロージャンを担当していたオリビエ・ボアッソンを付ける。AGのインディNXTプロジェクト出身であるコルトン・ハータとカイル・カークウッド(今季2勝)はもちろん来季も残留だ。

そしてAGで興味深いのは、4台目に乗るドライバーが未定……というか、4台目を走らせるかも確定していない点だ。デフランチェスコの当初の起用理由として噂されている、『大量の資金を持ち込むドライバーを起用して経営を安定させる』という発想はもうヤメにする方針を打ち出したAG。
しかし、グロージャンのカーナンバー28をサポートして来たDHLが離脱したために陥った資金不足を補うために、大型スポンサーを確保しているらしいスティング・レイ・ロブを走らせるという話が出ている。
ロブは、デイル・コイン・ウィズ・HMDから2023年にインディカーにデビューしたが、チーム体制の実力不足も起因してレースパフォーマンスはお世辞にも好いとは言えないものになっていた。
しかし、2シーズン連続参戦が叶えばロブもマシンやコースに慣れているだろうし、よりよいマシンと豊富なデータや数多くいるエンジニア……といったプラス要素も味方につければ実力を大きく伸ばす可能性はある。

2023年のAGで勝利を挙げたのは参戦2年目のカークウッドだけ。チーム最上位のランキング10位となったハータは、ポールポジション(PP)が2回に勝利がゼロ。トップレベルの才能を勝利に結び付けることができなかった点は、チーム・ドライバーともにおおいに反省すべきだ。
つまり、AGの場合はエンジニアリングだけでなく、マネジメント部門の強化も急務なのだ。作戦力の強化が必要だし、ドライバーを精神面からもサポートして彼らがフルに力を発揮できる体制を整えることも実現しなくてはならない。

チームにとってインディ500での7回目の勝利を目指すAGは、2022年に優勝を飾り、2023年は2位を獲得したエリクソンを新たに起用する。しかし、2023年のインディ500におけるAGのパフォーマンスは、決して高くはなかった。“アンドレッティはインディで速い”という通説は、空しくも過去のものとなりつつある。
その立て直しのためにも、AGは昨シーズンのオフと同じように琢磨に“インディ500へのスポット参戦”の話を持ちかけるだろう。琢磨と一緒にインディ500を制したエンジニアのギャレット・マザーセッドは今もアンドレッティに在籍している。
■再出発のメイヤー・シャンクと急浮上のレイホール・レターマン・ラニガン
AGと技術提携しているメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)は、2024年はまったく新しい布陣となる。
フェリックス・ローゼンクヴィストをアロウ・マクラーレンから迎え、2台目には彼らのスポーツカーチームでIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に参戦しタイトルを獲得して来たトム・ブロンクビストが起用される。
そして、エリオ・カストロネベスはインディ500での5勝目を目指し、もう2年続けて“インディ500”のみへのエントリーを行う。優勝は2021年のインディ500だけ……という状況をローゼンクヴィストと共に脱却することが第一の目標だ。

一方、クリスチャン・ルンガーによるトロントでのポール・トゥ・ウィンと、グラハム・レイホールと合わせた計3回のPP獲得という戦果を、2023年のレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)は挙げた。
ロード&ストリートコースでの戦闘力を大幅に高めた彼らは、2024年にはオーバルコースでのスピード確保を実現し、ホンダ勢のセカンド・チームにのし上がることを狙っている。
レイホールとルンガーはもちろんチームに残留し、3台目にはポートランドとラグナセカを走った元F1テストドライバーのユーリ・ビップスを起用することとなりそうだ。

ただRLLといえば、今年のインディ500でグラハムが喫した予選落ちがすぐさま思い出される。高速オーバルでのマシンの悪さはインディカー・シリーズを戦ううえでは致命的だ。もし、2年続けてインディでの予選通過が覚束ないとなれば、スポンサーを繋ぎ止めるのも難しくなるはずだ。
オーバルでのスピードが不足している理由は、エンジニアリングの脆弱さが原因だろう。その部門の強化については、すべてのチームにとって取り組むべき問題となっている。
そのため経験者は引く手数多、近頃ではレースでの経験を持たない若手を採用して斬新なアイディアを引っ張り出すこともトレンドになりつつある。つまり、エンジニアはチーム内で育て上げる時代ということ。しかし、RLLはその点で出遅れ気味、というわけだ。
2023年シーズンよりRLLのCEOの座に就いている、元HPD副社長のスティーブ・エリクセンは最終戦ラグナセカで「インディ500に関して、琢磨と話をすることにおおいに興味を持っている」と話していた。さらにRLLには、琢磨がエンジン開発でもたらしたフィードバック能力の高さを熟知しているエリクセンに加え、2020年に琢磨とインディ500で勝ったエンジニアのエディ・ジョーンズもいる。

レギュラー3台(ルンガー、レイホール、ビップス)にインディ500に1台をスポット参戦(未定)と、レギュラー4台+スポット1台(マルコ・アンドレッティ)以上+提携しているMSRの3台という参戦台数を抱えるAGに比べて明らかにコンパクトな参戦体制のRLLは、琢磨をより受け入れられ易い体制であり、琢磨も働き易い環境と言えるのではないだろうか。
デイル・コイン・ウィズ・HMDは、2024年も2台体制を保つものと見られる。ただ、いまやインディNXT最強チームとなったHMDとの協調体制が今後も続くのかは不明だ。それには、HMDオーナーの息子であるデイビッド・マルーカスのマクラーレン移籍が起因している。またロブの残留もなさそうで、今実際に噂されているのはグロージャン復活の噂ぐらいと、少し朗報に乏しい。