しかし無情にもモンツァの雨は強まる一方で、土曜現地18時25分に予定されていたレース1は延期が決定。改めて日曜午前にリスケジュールされる。これで歯車が狂ったか、路面にはまだウエットパッチが残る日曜レース1のスタートで、ポールシッターのFL5型シビックRはフィールド全体がすでにターン1に近づくまで動き出すことができず。ここで実質、勝利の可能性を失ってしまう。
そこからは文字どおりアウディの独壇場となり、冷えた路面でタイヤを作動温度まで上げるのが難しい条件のなか、ほぼオープニングの全周にわたってウィービングを繰り返したパウエルが、僚友バルダンに対して快適なギャップを築いていく。
しかし序盤の3周目にはセーフティカー(SC)が発動する大クラッシュもあり、せっかくのマージンが削られることに。また、このSCにより当初の10周から2周が延長された決勝最終盤には、選手権首位コロネルのアウディから煙が上がり、前日にペナルティなしでターボ交換を承認されていた大ベテランは、今度はショックアブソーバー破損でピットに帰還しリタイアを喫してしまう。
これで事実上の勝負は決し、ラリークロス出身の新鋭パウエルが国際ツーリングカーでの2勝目(TCRワールドツアー併催戦を含め今季5勝目)を記録し、2位バルダン、3位ダビドフスキーとコムトゥユー陣営のアウディが表彰台を独占する結果となった。
ただし、このヒートで最も注目を浴びたのはポディウムではなくその背後で、スタートで出遅れ一時は13番手まで後退したヴォルトは、そこから怒涛のカムバックを披露して4位でフィニッシュした。
この勢いのまま午後16時25分から始まったレース2では、そのFL5型シビックRが予選リバースグリッドの10番手から発進したにも関わらず、オープニングラップでトラブルを回避して7番手に進出。3周目には早くもトップ5に到達する。
さらに5周目にコロネルもパスしたヴォルトは、ここからバルダンとの首位争いを展開。前後を入れ換える一進一退の攻防が続くも、ついに8周目の最終“クルヴァ・アルボレート(旧パラボリカ)”でアウトサイドから豪快にオーバーテイク。そのまま独走に持ち込み、バルダンとコロネルを従えてのトップチェッカーとなった。
「何だか落ち着かないけれど、本当に良いレースだった」と、新型モデルとともにシリーズ初勝利を挙げた安堵と喜びを語ったヴォルト。
「週末を通してずっとスピードを出せたし、これだけの速さを出せたのは本当に信じられないことさ。今回は自分のすべてを出し切れたけど(最終戦の)バルセロナでは40kgのバラストを搭載するし、より困難になるだろうね」
これでスタンディング上は10点差となった首位コロネルとパウエルに、ジョン・フィリピ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)を含めた三つ巴の様相となった今季のTCRヨーロッパ・シリーズ。その最終戦は10月20~22日にスペインのバルセロナで争われる。


