「リカルドを捕まえよう。彼は苦しみ始めている」
48周目、3位を走るケビン・マグヌッセンに無線が飛んだ。2位のダニエル・リカルドは46周目に0.7秒、47周目にさらに0.6秒とペースを落としており、レッドブルには明らかに何かが起きていた。
「前の3台より0.8秒速いぞ。リカルドが後続を抑えることになるから、追い付けるかもしれない。彼は10秒前だ」
すでにクルージングに入っていたフェラーリ陣営も、同じように見て5位フェルナンド・アロンソに伝える。
マグヌッセンはすでに何周にもわたってリカルドとテールトゥノーズの膠着状態が続いている。そこでマクラーレンは、マグヌッセンに対し数周の間だけ燃料ミクスチャーを薄くして走り、最後に最も濃い燃料混合比で勝負をかける作戦を採らせることにした。
「数周だけイエローG6にしよう。最後の数周にG3を使うために(燃費を)セーブするんだ」
この指示を受けてマグヌッセンは、ステアリング上にある黄色のノブを操作する。Gと書かれたそのノブが、燃料混合比を設定するためのものだ。マクラーレンは従来からこのノブを多用してきたが、燃費マネージメントが重要となる今季はさらにその使用頻度が増している。
もちろんレッドブル陣営もこれを察知して、リカルドに警告を与えている。
「ペースをキープしろ。(マグヌッセンとの間に)ギャップが必要だ。彼は最後に備えて燃費をセーブしているぞ」
そして55周目、マクラーレンはマグヌッセンに指示を出した。
「OK、ケビン。イエローG3、イエローG3だ。残り3周だ」
この時点で2台のギャップは2.1秒まで広がっており、結果的にそのトライは残り3周でオーバーテイクに結びつきはしなかった。しかしマクラーレンは燃費マネージメント面で有利な立場にあり、セーフティカー導入によるスロー走行がなければ逆転も可能だったかもしれないという。
「レッドブルの状況は分かりませんが、突然ラップタイムが秒単位で落ちたりしていたので何かやっていたようですね。我々は燃費については余裕があったので、オーバーテイクボタンの使用も含めて最後にやれることは何でもやろうということでトライをしました。セーフティカー導入がなければ、レッドブルに対しては最後に燃費面でアドバンテージがあったかもしれませんね」(今井弘エンジニア)
総量100kgという燃料使用量制限の中で燃費マネージメントに焦点が当たっているが、ただ100kgの燃料で効率よく走り切るというだけでなく、ライバルとの関係も考慮しながら燃料の使い方を考えていかなければならない。そんな2014年のレース運営の難しさが垣間見えた、レース終盤の無線のやりとりだった。