まもなく開幕する2016年のF1世界選手権を、5つのキーワードで先読み。オープニングゲームの舞台となるメルボルンでは、どのような勢力図が浮かび上がってくるのか。ジャーナリストの今宮純が書き下ろしたプレビュー・コラム。

「21分の2」いきなり2強決戦でスタート

 過去3シーズン、年間チャンピオンは開幕2戦までに、まず1勝を決めている。2015年ルイス・ハミルトンは開幕戦、2014年は第2戦、2013年セバスチャン・ベッテルも第2戦。シーズン立ち上がりに勝ち、先攻パターンで主導権を握っていった。

 2016年のF1開幕は恒例のオーストラリアGP、第2戦がバーレーンGPに変わり、いままでのマレーシアGPは秋に開催される(現在、大改修工事中)。最初の2レースで王者に挑むフェラーリが1勝目を挙げると、おもしろい。メルセデスは昨年の日本GPから6連勝を続けており、これを止めるところから『2016年の挑戦』は始まる。

 予選方式やタイヤ選択ルールが変更される初戦、混乱ファクターに出くわすと意外に脆い面があるメルセデス。そこに付け入る隙が潜む。第2戦バーレーンは、昨年ベッテルが予選2位、キミ・ライコネンが決勝2位で最速ラップも記録。進化したフェラーリSF16-Hの実力勝負、高温条件でソフト寄りのタイヤを機能させて接戦に持ち込むか。最初の勝負は年間21戦のシリーズで、最初の2戦。キーワードは「21分の2」開幕から、いきなりの決戦スタートとなる。

「下剋上」やっちゃえ、新生マノーと初陣ハース

 元マクラーレンやフェラーリ、レッドブルで経験を積んだ“大物エンジニア”が結集した新生マノー。体制一変した「メルセデスBチーム」で彼らは古巣への意趣返しに燃えている。大型新人パスカル・ウェーレインの実力は1年前のフェルスタッペン以上か。DTM王者であり、メルセデスでF1テストの実績がある。

 30年ぶりに星条旗を掲げ、F1に打って出るアメリカ国籍のハース。NASCAR界をリードしてきたオーナーだけに、最近の新興チームオーナーとは違う。「アメリカン・ドリーム」を支えるのは、伊/フェラーリ製パワーユニット+ダラーラ製シャシー、仏/エースドライバーのロマン・グロージャン、日/小松チーフエンジニア、英/現場スタッフたちの混成チーム。ゼロからの旅立ちに、ファンも新風を感じるだろう。

「隠れた重大ルール変更」無線交信制限でドライバー力が問われる

 予選やタイヤ選択ルールの変更に隠れて、あまり注目されていないようだが、今季はピットからドライバーへの「指示・アドバイス無線」が厳しく制限される。ドライバーは事前にレースの組み立てを覚えこみ、コクピットでタイヤやパワーユニットの状態を自力で管理しながら戦わねばならない。

 F1競技規則の第20条1項に「ドライバーはひとりで援助なしに運転しなくてはならない」とある。この基本原則が、高度に発展したデバイスやツールによって、まるでエンジニアだよりの“遠隔操縦”と感じるようにさえなっていた。無線を制限することでレースの流れが変化して、トラブルが起こりうるのか……。実戦を注視してみよう。

「密集」スタートの興奮がよみがえる

 昨年の開幕戦でグリッドに並んだのは15台。マノー2台が不参加、マクラーレン・ホンダとレッドブル・ルノーが1台ずつレコノサンスラップでリタイアとなり、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスが欠場。スタートの迫力は、もうひとつだった。

 フルグリッド26台には満たないが、今年はエントリー22台。さらに合同テストからタイム差がぐっと縮まったのが大きな変化だ。3年目を迎えたパワーユニットは熟成開発が進み、発進加速性能も向上。迫力ある「密集スタート」が毎戦、展開されるはずだ。1コーナーのバトルが激化、オープニングラップ順位変動もめまぐるしく、セーフティーカー出動率も高まるか。開幕戦の舞台アルバートパーク、最初のコーナーを誰が獲るのか。何台が通過できずに終わるのか。F1バトルの原点はスタートにある──。

「ルノー対ホンダ」ワークス対決は伸びしろが鍵に

 ドイツ・メルセデスとイタリア・フェラーリが「1部リーグ」で争い、現時点でルノーとホンダは「2部リーグ」に位置する。昨年12月にロータスをワークスチームとしたルノーは「3年計画でトップを目指す」と、現実的な目標を掲げる。2年目のホンダはF1現場のトップが変わり「今年はQ3進出を目指したい」と、これまでよりも控えめに発言。

 だが公式コメントの裏には、もう少し高い目標があるはずだ。ルノーは開発の焦点をエンジン本体に向けてイルモア・エンジニアリングと連携、さらにターボ・コンプレッサーに着手する。NA時代からルノーはドライバビリティ重視、今年は著しい改善があったことをユーザーチームであるレッドブルが確認している。レッドブルの「コーナリングマシン」RB12の強みを活かせるコースでは、TAGホイヤーの名を冠したルノー製パワーユニットが躍進する可能性はある。ワークスチームはチューニング開発に専念、中盤までに人材スタッフ体制を再整備、2017年の新規定に向けてリソースを集中する動きになる。

 ホンダは第3期F1経験者の長谷川氏を筆頭に、無限ホンダ時代からモータースポーツ部門にいた中村氏で固め、新体制は大きく変わった。具体的な変化は最終テストに現れた。昨年はドライバーあたり年間4基までのパワーユニットを12基まで投入したホンダ。今季は信頼性を最優先テーマにして取り組み、昨年の欠点を見直すところからスタートした。ダイナモ室のパワー数値より、まずはコース上の信頼性。それが確保されなければ、ドライバーからの信頼を得られない。ふたりとも体験を通じて肌で知っているからこそ、まず信頼性の追求を徹底した。フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトン、マクラーレン側に「2年目の改革」をアピールできたはずだ。

 今季のパワーユニットRA616Hは前体制下で完成したもの。新体制によって、いかにモディファイしていくか。2016年はパワーユニット開発規制が緩和され、開発に使えるトークン数は32と増やされ、凍結箇所も減る。いつ、どこに、どんなタマを入れるか、現場で戦ってきた新リーダーによる新たな挑戦は始まったばかり。中盤まで一歩ずつ、下がることなく前に進むと信じている。

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