挑むための速さを、守るためには信頼性だ──バルセロナ短期集中テストで、2強のテーマが、はっきり見てとれた。8日間で最多の5回トップを占めたのはフェラーリで、セバスチャン・ベッテルが2月の初日と3月の最終日を締めくくった。王者メルセデスは最長の6024kmを走破、昨年12日間6112kmと、ほぼ同じ目標距離を達成。ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグを半日交代シフト制で起用する、新しいテスト方法まで取り入れた。

 前回の分析で気になったのは、ミディアムタイヤしか履かなかったメルセデスがソフトでどうなるか? 2回目のテストで、初めてソフトを経験したハミルトンは「昨年のソフトのほうがいい、バランスが崩れた」と言った。この時期は誰もがネガティブなコメントを慎むのに、ソフトタイヤを装着したW07の“変化”に相当驚いたのだろう。

 メルセデスは最終テストで、ふたりとも昨年のベストタイムを更新できなかった。3月1日にロズベルグが1分23秒022で唯一のトップタイム。しかし昨年バルセロナ・テスト1位タイムの1分22秒792に0.230秒及ばない。2日にハミルトンが自己ベスト1分23秒622、これは昨年より0.600秒も下落している(昨年も今年もタイヤはソフトで同じ)。ハミルトンが指摘したソフトタイヤでの“変化”を、このタイムダウンが裏づける。

 ピレリは「今年のソフトタイヤも昨年と構造は同じ(ウルトラソフトは異なる)」と公表。他の誰からもネガティブな感想は聞かれず、むしろ「ソフト→スーパーソフト→ウルトラソフトとグリップは上がった」と言うのに、メルセデス勢だけが伸び悩んだ傾向がデータから読み取れる。このテスト、ソフトでのベストタイムはキミ・ライコネンの1分23秒009。最速の1分22秒765はウルトラソフトによるものだが、ソフトでもメルセデスを超えた。

 周回距離を最優先するためにミディアムでの走行に徹したメルセデス。その状態でベストタイム1分24秒126は、確かに抜きん出ている。カーバランスはベスト、あらゆる燃料重量で最適セッティングを構築しながら空力アップデート確認作業も進めた。それならば開幕序盤の指定スペックを、ソフトだけでなくスーパーソフトもチェックする余裕があったはずだ。タイヤの年間テスト使用セット数に制限があろうと、1セットも試さなかったのは「手の内を隠すため」? あるいは「履いたらボロボロになるほど強大なパワー&トルクがあるから」なのか……?

 最後の2日間、メルセデスは再びミディアム中心でフルレース・シミュレーションに取り組んだ。並行して、届いたばかりのフロア・パーツを実走確認、総仕上げプログラムを粛々と実行中に事件は起きた。3月4日、午後12時48分、赤旗。ストレートを通過したハミルトンが異音とともにピット出口脇にストップ。数周ランする予定がミッション・トラブルによって断たれ、王者は赤旗でテストを終えた。およそ2時間後、ロズベルグは修理したW07でコースへ(この短い修復作業には驚いた)。シミュレーションを開始したロズベルグは同じ目的のベッテルを、やや上回るペースで、夕方6時に当日の自己ベスト1分26秒140をマークした。マノーのリオ・ハリアント以下となる最下位タイムだが「マシンの感触は8日間で最高!」と絶賛、午前中に止まった王者とは対照的に満足気に終わることができた。メンタル面で昨シーズン終盤の「ダウン&アップ関係」を思い出す。

 攻めるフェラーリは3日、ライコネンがウルトラソフトで最速1分22秒765を叩き出し、テスト2日目にベッテルが出していた1分22秒810を更新。総合ベストタイム「1-2」で締めた。これまでピレリの軟らかいスペックがしっくりこなかったライコネンがソフトで最速、ウルトラソフトでも最速。ベッテルは「今年キミはすぐ近くにいる」と発言した。これは共同戦線でメルセデスに挑むという意味にとれる。

 8日間にわたる「バルセロナ・テストGP」でフェラーリは王者へと急接近、追いつく寸前でチェッカーは振られた。メルセデスに対して昨年までとは違うホンモノのプレシャーをかけ、守りに徹する心理へとメルセデスを揺さぶった。見てみよう2強対決、今年は開幕レースが、いきなりの決戦──。

 他の寸評を。総合4位タイムを記したニコ・ヒュルケンベルグを、現時点で今年のダークホースに挙げたい。着々とタイヤ評価を進め、残る課題はVJM09のバンプや縁石での挙動か。5位はカルロス・サインツJr.が入り、走り込む姿に2年目の成長がありあり。パワーユニットが変わったトロロッソがマイレージで2位、4883km走行は驚異だ。6位ベテランのフェリペ・マッサ、最終テストで急速挽回したFW38はリヤサスペンションの変更が決まり、バルテリ・ボッタスも前回14位タイムから7位へ上昇。8位マックス・フェルスタッペンは534周を走破、メルセデスふたりに次ぐ距離をこなしてフィードバック能力もアップ。9位ダニエル・リカルドはチーム方針に従いタイムにこだわらず、ひたすらスティントラン。ハミルトンに次ぐ11位セルジオ・ペレスは、やや距離不足だが、得意のタイヤ評価をしっかりと。

 12位ケビン・マグヌッセンは509周をカバー、新生ルノーのエースとして意気込みは強い。13位ダニール・クビアトはロングランばかりだったので、ちょっと欲求不満か。14位ジェンソン・バトンはパワーユニットのテストに専念、セットアップ不十分も発言は大人っぽくポジティブ。15位フェルナンド・アロンソは何度かコースオフ、昨年より信頼性は向上したもののマクラーレン3305kmはマノーよりは上の全11チーム中、9位にとどまる。たった4日間のニュー・ザウバーC35で16位フェリペ・ナッセ、初日から103周は上々。アルフォンソ・セリスに及ばなかったルノーの新人ジョリオン・パーマーは総合18位、存分に走れなかった。マノー新人パスカル・ウェーレインは健闘19位、新生チームを牽引する力量を、さっそく発揮。20位マーカス・エリクソンはショートラン不足も今年のパワーユニット特性を確認。正真正銘の新チーム、ハースを率いるロマン・グロージャン21位はスピンしてもダメージ回避の技が光った。エステバン・グティエレスは慣熟ランで22位、新人リオ・ハリアントは学習ペースで23位。ここから彼らがどこまでポジションアップするか、2016年ひとつの見どころだ。

 昨年の6.114秒差から<3.134秒差>に詰まったバルセロナ・テスト。今シーズンのキーワードはふたつ、実力接近する11チーム「濃縮イレブン」と「挑むチカラ」──来週のアルバートパークで、はっきり見ることになるだろう。

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