読者のみなさん、新年ゆっくりとお過ごしだろうか。『F1速報』webの人気連載トム・ハンター氏(仮名)「パドック裏話」の番外編となる、恒例の覆面座談会。今年は正月早々からお届けする。座談会の出席者は、おなじみの3名。ハンター氏は当然のように欠席で、発言者の身元を明かすことはできないのだが、最小限のプロフィールを紹介するので勘弁してほしい。今回は2015年のF1を振り返りつつ、それぞれの独断で2016年を占ってみようという趣向だ。

A氏:美食と美女には一家言ありの情報通ジェットセッター
B氏:どんなことも裏を読んでしまう、悪気のない毒舌家
C氏:見た目はラテン系、パドック滞在時間ナンバー1を誇る

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

──みなさん新年早々お集まりいただき、どうもありがとうございます。日本では、お正月の番組は年末に収録することが多いんですけど……この座談会が、いつ行われているかについては謎のまま、始めさせていただきます。

A氏:さーて、最初のお題は何かな?

──結局のところメルセデスが強かった2015年を終えて、2016年はどんな変化がありそうでしょうか。

B氏:そんなマジメな話? ずばりメルセデスと他チームの差は縮まる、と言っておこうか。

A氏:でも、よくよく考えてみると2015年、マレーシアは別としても、あとメルセデスが負けたのはハンガリーとシンガポール。どっちも低速コースで、中高速コースではメルセデスの圧勝。やっぱりパワーユニットの差は大きいんだよ。

C氏:メルセデス以外で勝ったのは、2014年がレッドブルで、2015年はフェラーリ。どっちも3勝ずつで、ここ2シーズンは劇的な変化がなかった。

B氏:フェラーリのパワーユニットは、かなり良くなってるでしょ。ザウバーを見れば、わかる。

A氏:だって、フェラーリはパワーユニットを優先して開発してきたから。それでもメルセデスとの差が、あれだけあったということは……。

C氏:むしろ2015年はメルセデスの第2グループ、ウイリアムズやフォース・インディアがトップ争いに絡めなかったことに注目したいね。メルセデス以外で「まとも」なパワーユニットと言えるのは、フェラーリだけ。いくら車体性能がよくても、パワーユニットがダメだと、どうにもならないレギュレーションだからさ。

A氏:フォース・インディアは新車を投入するのが遅くなったというのもある。あと2015年に期待はずれだったのはレッドブルだけど、がらっとクルマを変えたから前半戦に苦労した。

B氏:2015年のレッドブルはエイドリアン・ニューウェイ設計なの?

A氏:新車発表のときも前に出てこなかったし、2014年よりは関わってる、くらいじゃないかな。ちなみにニューウェイは、ずっとレッドブルにいるの?

B氏:籍はレッドブルに置いていて、2017年のレギュレーション大変更で気が向いたら「また、やろうかな〜」って感じだと思う。

C氏:でも、2015年のレッドブルのクルマは悪くなかった。

A氏:序盤はトロロッソに負けていたところもある。コンセプトをガラッと変えているから、使いこなすまでに時間がかかった。前半戦ダメなのは「レッドブルあるある」だよね。

──レッドブルは口が災いのもとで2016年のパワーユニットがなくなりそうな、ごたごたもありました。

C氏:ああなるのは目に見えていた。あのチーム首脳、嫌われ者だからね。

B氏:人望がないから。バーニー・エクレストンの腰ぎんちゃくというイメージ。自称「バーニーの後継者」だから。

──「やり手の若きチーム代表」というイメージでしたが……。

C氏:やり手の嫌われ者だよ(笑)!

B氏:でも、クリスチャン・ホーナーはメディアに対してサービスがいいからね。露出度も高いしテレビの前では良いことを言うから、あんまり悪いイメージは表に出てなかったけど、2015年は表面化しちゃった。

──「言うこと聞いてくれないなら撤退するぞ」発言もありました。

C氏:レッドブルが、これだけF1をやっているのは個人的な七不思議のひとつ。チームを所有するやりかたは効率が悪い。いつ、いなくなってもおかしくないと私は思っている。

B氏:撤退発言は半分、本気だったかもしれない。急にやめる場合は違約金を払うというバーニーとの約束が少しは歯止めになったのか……。

──なぜレッドブルは、あんなに強気だったんでしょう?

B氏:メルセデスとの交渉が決裂した経緯について、トト・ウォルフが言っていたとおりだとしたら、ホーナーの責任だよね。メルセデスは夏の間に「メールしてね」って言ったのに、しなかったとしたら。

A氏:ホーナーはチーム内をまとめて、勝てる組織を作る力はあった。でも他のチームとの折衝や交渉ごとは上手じゃない。

B氏:メルセデスは「ルノーとは市販車で協力関係が強いから、ちゃんとルノーに仁義を切ってね」とレッドブルに言っていた。同じ工場の別ラインでクルマを生産していて、メーカーとしての関係があるんだって。だから、レッドブルのパートナーであるルノーに対して「嫌な思いをさせないように」って、さんざん念を押したらしい。それをホーナーが無視して、メルセデス本社側はカチンと来たらしい。

──なるほど、そんな裏事情があったんですね。2015年の後半、ニコ・ロズベルグが復調したことについては、どう見ていますか。

A氏:終盤はルイス・ハミルトンからチームへの不平不満も絶好調だった。

B氏:「戦略を自由にできれば、勝てたの?」と聞きたい。

A氏:最後のロズベルグ3連勝のときは、無理でしょう。

C氏:チームとしては分配金を手に入れるためにコンストラクターズが重要で、メーカーとしては名誉でもある。だから、ふたりともポイントを取ってほしい。ロズベルグが負けっぱなしでシーズンを終えたら、気持ちがダメになってしまうかもしれない。それで、チームがロズベルグに肩入れしたいと思ったとしても不思議はないよね。2015年もタイトル争いでは敗れたロズベルグに、最後は花を持たせる。2016年も心折れずに頑張ってもらうために……。まあ、これは私の想像だが。

──タイヤの内圧について厳しくなったことは影響あるんでしょうか。

C氏:あるチームのエンジニアは、イタリアGPで調査が入るまで「メルセデスとレッドブルは推奨内圧を守っていなかった」と断言していた。メルセデスがグリップを上げるために内圧を下げていたとしたら、内圧を高くしたことでハミルトンのほうに大きな影響があったのかもしれない。予選でロズベルグに勝てなくなったというのも辻褄があう。

A氏:そもそもはベルギーGPでタイヤがバーストしたとき、ピレリは「原因はデブリでした」と発表したんだから、内圧を上げる必要なかったのに……。

C氏:そういえば、今シーズンが面白くなりそうな要素もあるぞ。ハミルトンのタイトルがアメリカGPで決定して、チームは2016年にシフトしていた。どんどん新しいパーツを入れて、ノーズのコンセプトだって今季は変更してくるかもしれない。要するに、それがハミルトンに合わなかったと考えることもできる。

A氏:つまりメルセデスが2016年に向けて試していた方向がロズベルグに合っていたと。そうなると、今年ロズベルグが開幕から独走する可能性もある!?

──2016年に導入される新しいタイヤのルールは、どうでしょう?

C氏:これまでのタイヤが硬すぎて、たとえばフォース・インディアあたりは軟らかいタイヤを使いたがっていた。それで新ルール導入へ働きかけたわけだけど、結局ルールが複雑になった割には効果が出ないんじゃないかと心配している。2015年の終盤、ハミルトンはタイヤの熱入れに問題を抱えていたようだったけど、そこにはどう影響してくるのか……。

A氏:まあ「面白くなるぞ!」って言っておけばいいんじゃない。

B氏:やっぱり一番お金をかけずに変えるなら、タイヤだからね。ミシュランが、またF1やりたがっていたけど、あそこは参加するからには口も出してくるから、すっかりバーニーたちに嫌われちゃって落選……残念でした。

A氏:その点ピレリは、バーンとお金を出す。タイヤを供給するだけじゃなくてサーキットに看板を出したり、タイトルスポンサーになったり。クルマにつけるロゴだって、お金を払うわけだから。

B氏:ピレリはF1に出ていることで、ちゃんとメリットがあるんだよね。ワンメイクだから全戦全勝だし、このまま続けていれば勝利数も伸ばせる。史上最多はグッドイヤーの368勝、2位はブリヂストンで175勝、3位がピレリで現在140勝。ピレリと言えば、非売品のカレンダーがコレクターズアイテムとして有名だけど「実はF1でも勝ってますよ」とアピールできる。

C氏:ピレリカレンダーの素晴らしさには異議なし! そろそろ、休憩しようか。

──それでは新春1回目は、これにて。次は2015年に大当たりだったルーキーたち、あのメーカーのワークス復帰などなど、2016年の楽しみな話題を覆面座談会ならではの切り口で大いに語っていただきましょう。

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