2016年シーズンの新車が出そろい、バルセロナでのテストを経て、もう開幕戦は目前。『F1速報』ご意見番とも言える森脇基恭氏が、今季ニューマシンを見て感じた傾向、個人的に気になるところ、そして期待度の高いクルマについて語る。
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まずは「あまり変わっていない」と言われているメルセデス。昨年あそこまで到達していて、今年が現行規定の最終年度ということを考えると、当たり前とも言えます。しかし、大きな変化は見えなくても、バージボードやノーズなど、非常に細かいところを追求してきている。チームがうまく機能していて「いいと思うことは全部やろう」という雰囲気を感じます。どんどん突き詰めていくと、もう劇的に改善するような大きな“タマ”は残っていない。それでも自分たちの持っている知識とデータをもとに、少しでも前に進もうとしている。
メルセデスW07で一番の特徴は、ドライバーの後ろにあるエアインテークが大きくなっていること。ボディ後端を絞り込んで空力を良くしたい、でも冷却はちゃんとしなければいけない。相反することを、きめ細かく考えている。メルセデスがここまでやってきたら、他は打つ手がないんじゃないかと思うくらいです。
全体の傾向としては、同じレギュレーションのもとで開発が進んでくると、当然どんどん似たようなクルマになってくる。そのなかで面白いのは、メルセデスのノーズを他チームが真似してこないこと。ウイリアムズのような先端に「親指」が付いたタイプが増えて、フェラーリも追従しています。
走っているクルマには、いつも正面から風が当たっているわけではなく、斜めになっている状態のほうが、ずっと多い。それを考えると「親指」が飛び出ているより、メルセデスのようにシンプルな形状が有利なはずです。ただ、メルセデスのようなノーズでクラッシュテストをパスするのは、かなり難しいのかもしれない。それで「親指」を付けて、なんとか空力と強度の折り合いをつけている。どのチームも時間との戦いであり、苦肉の策ということでしょう。
空力面だけ考えても、ノーズの部分は難しいんです。レギュレーションに合わせてノーズの先端を低くすると、メインウイングの中央を通る風が少なくなって、後ろに悪影響を及ぼすこともある。それを回避するにはノーズを短くしてフロントウイング後端まで下げることです。あるいは「親指」だけ下げておいて、あとは上にあげて空気を通したほうが良いという判断もある。ノーズ形状はサイドポンツーンから後ろのほうまで全体に影響することなので、どうバランスさせるか、そこにチームの考え方が出る。
フォース・インディアの、ノーズに穴を開けた形状は、よくわからないですね。昨年型の実物を見たんですが、あれは良い方法なのかどうか? ウイリアムズのような「親指」タイプは考え方が理解しやすく、シンプルな解決策だと思います。
メルセデスはバルセロナ・テストで、さらに新しいノーズを投入してきました。フロントウイングの中央部にマウントしている部分が、すごく少なくなっているものです。あくまでテストとは言え、あれで剛性を確保して、効果が得られるという確信を持って用意したんでしょう。いまはコンピュータ上のシミュレーションで“クラッシュテスト”ができますから、どんどん無駄は少なくなっているはずです。
新チームのハースは、手堅い印象。何も冒険せず、「さすがダラーラだ」という仕上がりですね。マノーはパワーユニットが変わり、ミッションが変わり、そこの信頼性が上がれば、ちゃんと走れるでしょう。スタッフも強化しているので、設計段階でのシミュレーションをしっかりやって、人並みの重量でクルマを作ることができれば、それなりのタイムが出せると思います。ルノーは現時点では昨年のクルマと、かなり似ている。いいものも、悪いものも、まだ出てきていない。
個人的に期待度が高いのは、まずハースですね。新チームにもかかわらず1回目のテストからしっかり走れて、タイムも出ている。じゃあコンスタントにポイントが取れるかどうかと言えば、かなり難しい。現在の勢力図でトップ10に入るのは大変なことだから、ハースが簡単にできるとは思わないけれど、中団グループが引っ掻き回されてしまうかもしれない。
あとひとつは、フェラーリです。レギュレーション変更を控えた年に、大きくクルマを変えるという選択をした。メルセデスをやっつけて、何勝か挙げる唯一のチームになりうると期待しています。