1916年以来、コロラドスプリングスで開催される『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム』が、世界で最も伝統と格式を持つヒルクライムイベントであることに疑いはないが、世界自動車連盟(FIA)は昨年6月の評議会の後、まったく新しいヒルクライムイベントを開催すると発表した。それが、今年10月に開催予定の『2014FIAヒルクライム・マスターズ』だ。
F1を筆頭に、WEC世界耐久選手権、WRC世界ラリー選手権、WTCC世界ツーリングカー選手権、そして日本のスーパーGTのようなグランドツーリングカーなど、モータースポーツには様々なジャンル、カテゴリーが存在している。ただ、そのなかでも『ヒルクライム』と呼ばれるイベントが、欧州では古く1930年代から開催されてきたポピュラーな形態のイベントであるという事は、あまり知られていない。
20以上のヨーロッパ諸国だけでなく、北米でもパイクスを頂点として数々のヒルクライムイベントが存在するが、現在世界で開催されている中で最も大規模なシリーズがFIA欧州ヒルクライム選手権である。
同シリーズはヨーロッパの11カ国で13戦を開催。参戦するマシンも、旧型のLMP2マシンや、大幅な改造が施されたGT3マシン、そしてオープンホイールである現役GP2マシンなど、かなりハイパフォーマンスな車両で争われている。またその他にも、往年のF1マシンやル・マンカーなど、クラシック・レーシングマシンのみで競われる選手権(全12戦)や、FIA格式のイベントだけでも『FIAインターナショナル・ヒルクライム・チャレンジ』、『FIAヨーロピアン・ヒルクライム・カップ』(全11戦)など、数多くのシリーズが存在している。
そこに加えて、これら選手権のチャンピオンたちが一同に介して、真の王者を決めようというのが、今季10月11日~12日にルクセンブルグ大公国で開催予定の『FIAヒルクライム・マスターズ』なのだ。いわば、F3のマスターズやマカオのような位置づけのイベント、と言えるだろう。
「現在、ヨーロッパ・ヒルクライム・チャンピオンシップは多くの人気を集めている」と説明するのは、FIAヒルクライム・コミッション代表のポール・ゲトイヤー。
「各イベントのエントリー数は150を越え、多いときでは250台にも達することがある。しかし主なエントラント、ドライバーは月曜から金曜までパーマネントの仕事を抱えたオーナードライバー、ジェントルマンドライバーが主流なんだ。彼らのような愛好家のほとんどは、海外のイベントを行ったり来たりして、参加するまでの自由度がない」
「マスターズは年に1回のシングルイベントになる。国内でのチャンピオンの参加を促し、その国の代表という意識を持って参戦してもらい、さらに国外のドライバーとも互いに競い合う場として機能させたいんだ。年に1度、このスポーツのお祭り的な意味合いでもヒルクライム・シーズンのクライマックスとして確立させたいと考えている」
イベントはヨーロッパの中心部、フランスとベルギーに囲まれたルクセンブルク大公国にある、25年の歴史を誇るコース『Eschdorf(エスドルフ)』で開催。総合とネイションズ・カップ(国別対向)の2種目で争われる。全長2kmと短いだけに、真のヒルクライム・ドライビング・スペシャリストを決めるイベントとなりそうだ。