フルコンストラクターとして再出発したルノーF1。そのリザーブドライバーに抜擢された19歳のフランス人、エステバン・オコンは日本のF1ファンにとっては、ほとんど無名の存在だと思う。

 彼の印象は、昨年のGP3チャンピオンで、同じARTチームでGP2を戦っていた松下信治が「とにかく速いドライバーですよ」とベタ褒めしていたことぐらいだ。そこで、まずオコンと親しいフランス人ジャーナリストに、どんなドライバーなのか訊いてみた。「とにかく凄い才能だよ」というのが第一声だった。

「オコンはふたつの強みを持っている。言うまでもなく、コース上の速さはとんでもない。経歴を見ればわかるように、ほとんどのカテゴリーで1年目でチャンピオンになって、順調にステップアップを重ねてきた。特に一昨年のヨーロッパF3は、マックス・フェルスタッペンと一騎打ちを繰り広げてのタイトル獲得だった。彼はフェルスタッペンを終生のライバルと捉えていて、F1で再び彼を打ち負かしてチャンピオンになるのが夢なんだ」

「もうひとつは、精神的な強さだ。オコンは非常に貧しい家の出でね。父は自動車工場のメカニックで、幼い彼をカートに乗せたところ、素晴しい速さを見せた。それで息子の才能に賭けたわけだが、レース費用を工面するために自宅を売り、それ以後一家はキャンピングカーで暮らしながら、サーキットを転々としていた。古いタイヤをサーキットのゴミ箱から拾って、レースに出たりしていたんだ」

 ミハエル・シューマッハーにも、まったく同じエピソードがあった。

「父親の期待はエステバンにとって、すごいプレッシャーだった。1戦ごとに結果を出さなければ、その後も走り続けられる保障はまったくない。そうやって精神面でもすごくタフになっていったんだ。彼と話していると、とても19歳の若者とは思えないほど成熟している。普段はとても物静かで、感情を表に出さない。でも、いざとなれば思い切りのいい走りをやってのける」

「しかし本能にまかせて走るタイプじゃない。周囲の状況を冷静に把握し、その時点の自分にとってベストの方法は何かを考え、その通りの走りが実行できるドライバーなんだ」

 まるでアラン・プロストのようだと言うと「そう! このまま順調に成長すれば、オコンはプロストの後を継ぐフランス人ドライバーになれると思うよ」と断言した。フランスからはプロスト以降、F1チャンピオンは生まれていない。

 その後、テストの現場で本人と直接話す機会があったが、非常に魅力的な若者だ。ビジュアル的にも、レベル高し。少なくともプロストよりは、ずっとイケてる。それにルノーF1のレーシングディレクターに就任したフレッド・バスールは、オコンの育ての親とも言うべき存在だ。早ければ来季には、F1デビューを果たすかもしれない。

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