ロータスのインディ復帰を記念し、琢磨は決勝で特別なカラーリングを施したヘルメットを着用することになった。その初お披露目がメディアデイのこの日、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのノース・プラザ・シャレーで行われた。その後、琢磨はロータスカラーのダラーラ・ホンダでコースを1周。その隣りにはKVレーシング・テクノロジーの共同オーナー、ジミー・バッサー駆るロータス38の姿があった。
5月28日(木)
インディ500・メディアデイ
「僕にとってのロータスはセナのイメージ。初めてのインディ500をロータスの一員として走れることにすごく誇りを感じています」
Q:予選初日に大きなアクシデントを経験して、休みたいところだったと思いますが、忙しい日程が続いていますよね? 体はもう大丈夫ですか?
琢磨:順調に、ゆっくり回復して来ています。さすがにアクシデントのインパクトが大きかったので、浅い大きな筋肉の筋肉痛っていうのは1日、2日で引いて行くんですけど、結構深いところに痛みが残っています。脳も大きなGフォースを受けたので、体調はゆっくり元に戻って来るということだと思います。予選の翌日の月曜日、みんなでコネチカット州のブリストルへ行ったんですけど、実はあの日は結構つらかったんです。1日ずっと外にいたので、ちょっとクラクラして来たりして……。変な汗をかいたりとかもありました。でも、もうその後数日が経っていて、大分落ち着いています。明日、カーブレーションデイを走って、その後に1日準備をすれば、レースデイの朝にはもうシッカリと元に戻れているはずです。
Q:今回のように大きなアクシデントの経験はあるんですか?
琢磨:ちょっと方向性が違うんですけど、2002年のF1オーストリアGPでのアクシデントは今回に勝るとも劣らない衝撃でしたね。あの時は再スタートの直後だったんですけど、ヘアピンを曲がっていた時、後ろから曲がり切れなかったニック・ハイドフェルドのクルマが時速200キロ近いスピードで当たって来て、僕は全身打撲で病院に運ばれました。骨は折れなかったんですけど、あの時も数週間は具合が悪かったですね。
Q:その時に比べると今回の回復は速いということですね? つまり、体へのダメージが小さかったということでしょうか?
琢磨:そうですね。すごくシンプルに真後ろからぶつかったので、ピークのGフォースとしては今回の方が大きかったんですけど、体的には今回の方が全然回復が早いですね。
Q:予選後も多くのイベントに出て、だんだんと気持ちが高まって来ていますか? ロータスで走るという点でも大きなインディ500デビューですが?
琢磨:両方ともエキサイティングですよね。ものすごく楽しみにしています。予選を終えてからはもう決勝に向けての準備だけなので、自分としては今、徐々に徐々にボルテージが上がって来ています。毎日イベントに出ることで、ファンから刺激を受けたり、環境がどんどんレースに向けて盛り上がっています。そういう意味でも今、僕はレースを本当に楽しみだと感じていますね。
あと、この後でロータス38とコースを走るんですが、それはロータスのインディに戻って来るという記念のイベントです。それも楽しみ。でも、ロータスで戦うインディだからと特に気負うとかはないですよ。シーズン第2戦目からロータスで走って来てますけど、彼らのプロジェクトの一員になれているということには大きな誇りと感じています。その中でべストジョブをしたい。インディ500はホントに大きなイベント。それはわかっているんですが、まだ僕も決勝日が来てみないと、その本当のすごさ、大きさっていうのは実感し切れないと思います。そういうところも楽しみですよね。
Q:琢磨選手にとってロータスといえば、やっぱりアイルトン・セナですか? 中嶋悟選手でしょうか?
琢磨:両方ですけど、やっぱりセナの印象は圧倒的に大きいですね。僕が初めてサーキットに行って、初めてF1を見たのが87年の鈴鹿でした。それが生まれて初めて見たレースだったんです。まだ僕は10歳でした。中嶋さんが初めての凱旋レースで注目されていて、チームメイトがセナだった。子供だった僕とすれば、自然と彼らふたりのレースに注目しますよね? プログラムを開けば、ふたりが同じページにいましたから。レースでは黄色いマシンを応援しました。セナはすごく自然に自分の中に飛び込んで来たって感じでしたね。彼は予選7番手から決勝で2位まで上がって行くんですけど、そのシーンを見てて、僕にとって本当に忘れられないレースになりました。たぶん、セナだけが順位を上げて行った。そういう風に僕には映っていたんです。周りにも順位を上げた人ていうのはもちろんいたはずなんですけどね(笑)。セナの走りに圧倒的に強い印象を受けたんです。だから、それからずっと僕はセナのファンで、レースをして来たんです。
Q:そのレースで優勝した赤いクルマ(フェラーリ)より、黄色いロータスの方が印象が強かったんですね?
琢磨:そうですね。全然強かったですね。
Q:そのロータスに自分が乗るというのは?
琢磨:それはもう特別な思いがありますね。まさか自分がロータス・ブランドを身につけて走るとは夢にも思っていなかったので、すごくうれしいですね。
Q:3日後に控えた決勝ですが、最後列からのスタートです。どんな戦い方をしようと考えていますか? 例えばトニー・カナーンが同じ列にいますが?
琢磨:レースは焦らずに行きます。TK(トニー・カナーン)について行こうかな? 彼は本当にポジショニングやタイミングを取るのがすごくうまいから、先週もずっとプラクティスで見ていたけれど、ものすごく上手ですよ。そこは僕はまだ練習し切れてない部分なので、明日のカーブレーション・デイにどれぐらいプラクティスができるかわからないけど、レースでポジションを上げて行けるクルマに仕上げたいですね。レースはものすごく我慢のレースになると思うんですけど、そうは言ってもリードラップには常にいなくちゃいけない。みんな最後の50周が大事だって言うんですけど、今のインディカーってずっとスプリントなんですよ。ずーっと全開なので、気を抜ける時間なんてたぶん全然ないでしょう。自分たちとしては、ジックリと我慢して、ポジションを上げて行くことが大事だと思ってます。
Q:レースの折り返し点でトップ10入りできていたら、上位フィニッシュのチャンスも出て来るのでは?
琢磨:そういう戦いにできたらいいですね。ピットストップはミニマムで7回とか8回と聞いてるんで、10回ぐらいやる覚悟をしています。そうなるとやっぱり、ミスをひとつでも少なくすることが大事になります。チームが一丸となって、ちょっとずつでも前に上がって行きたい。そういうレースをしたいと考えています。