さて、具体的にラリーイベントがどのように進行していくのかをおさらいしてみよう。
週末のスケジュールは、前述のレッキに続くシェイクダウンと呼ばれるステージから始まる。シェイクダウンは、ドライバーたちがラリーカーに乗ってレーシングスピードで走る最初の機会だ。ここでは5km前後の短いステージを数回走ることができ、マシンのコンディションや路面の状況を確認することで週末全体へ向けてのウォームアップを行っていくステージとなる。
大体の場合、木曜日にシェイクダウンと大会を華々しく彩るセレモニアルスタートが行われ、その後市街地や特設ステージを舞台に距離の短いスーパーSSが実施され、これがオープニングステージとなる。本格的な戦いは金曜日から日曜日にかけての3日間。金曜の早朝からは連日、タイムアタック区間のSSを走り重ねながら日曜の午後に設定された最終ステージのフィニッシュを目指していく。1大会でのSSの数は20前後だ。

ほとんどの大会では最後のSSが“パワーステージ”と呼ばれる特別なステージに設定されている。同ステージでは総合順位にかかわらず、ステージタイムに応じて上位5台のクルーとマニュファクチャラーに最大5ポイントのボーナスポイントが付与される。
また、ラリージャパンの豊田スタジアム内で開催されたステージに代表されるスーパーSSでは、特定のエリアにコースを設けることで、観客がその走りを近くで見ることができる。実際に観戦してみても、2台が同時に走ってタイムを競う様子は白熱し、中継映像で見る戦いとは明らかに異なる雰囲気を味わうことができる、特別なステージとなっていた。

アタックに入るドライバーの出走順は、“フルデイ”の初日となる金曜ではポイントランキングの上位から、土曜日以降は当該ラリーの総合順位で下位になっている選手から順番にステージに出ていく。
この走行順により不利・有利が生じることは少なくない。最初にアタックを行う選手は、路面上に堆積した“ルーズグラベル”と呼ばれる細かい砂や砂利、新雪などを払いのけながら走ることになるため、後続車両のタイムと比較したとき後れを取りがちだ。ステージはクルマが走れば走るほど路面がクリアになり、本来のグリップが得られるようになる。つまり、出走順が遅いほど路面の状況は良くなっていくのだ。ただし、これは路面が乾いたグラベル(未舗装路)や新雪が積もったスノーステージの場合に起きること。
ターマック(舗装路)の場合にはこれが逆の状況となり、各マシンが泥やほこりを巻き上げながらステージを通過し、コーナー部では“インカット”と呼ばれるショートカット走行によって路面が徐々に汚れていくため、出走順が遅くなるにつれ路面コンディションが悪化していく。また雨で濡れたグラベルステージでは道が荒れていくため、やはり出走順が後ろになるほど不利になる。この逆転現象も、ラリーが持つ難しさであり面白さのひとつだ。


コドライバーに並ぶラリー特有の要素ふたつめは、マシン整備についてだ。サービスパークと呼ばれる整備拠点を出てマシンがチームメカニックの手を離れると、その後は選手たちの手でトラブルやアクシデントに対処しなければならない。
例えばスペシャルステージ中にタイヤのパンクが発生した場合、ドライバーとコドライバーが自らタイヤ交換を行う。また、ステージ上でクラッシュを喫したりメカニカルトラブルなどが発生した場合も、競技に復帰するためにステージ上、もしくはステージとステージの間、ステージとサービスを結ぶリエゾン(移動区間)で自らマシンの修理を行わなければならないのだ。そのためクルーたちには迅速かつ正確な整備スキルと、マシンに対する深い理解が求められる。
足回りが完全に壊れるなど現場での修復が不可能で、競技続行が困難な場合はデイリタイアとなる。運搬されたクルマはサービスで修復が完了すれば翌日からの再出走も認められているが、横転などで万が一シャシーにダメージに負った場合は、安全上の観点から出走は認められず大会からリタイアすることとなる。
なお、チームが行うサービスでの整備時間についてもレギュレーションの定めがあり、ステージ開始前の15分間、日中の40分間、1日の終わりの45分間といった規定時間にのみ作業を行うことができる。デイリタイアした車両の修復作業は最大4時間だ。
続いては、全部で13ラウンドが予定されている2024年シーズンのカレンダーをおさらいしよう。


■WRC世界ラリー選手権 2024年シーズンカレンダー(1月19日時点)
Round | Date | Event |
---|---|---|
Rd.1 | 1月25~29日 | ラリー・モンテカルロ |
Rd.2 | 2月15~19日 | ラリー・スウェーデン |
Rd.3 | 3月28~31日 | サファリ・ラリー・ケニア |
Rd.4 | 4月18~21日 | クロアチア・ラリー |
Rd.5 | 5月9~13日 | ラリー・ポルトガル |
Rd.6 | 5月30日~6月2日 | ラリー・イタリア・サルディニア |
Rd.7 | 6月27~30日 | ラリー・ポーランド |
Rd.8 | 7月18~21日 | ラリー・ラトビア |
Rd.9 | 8月1~4日 | ラリー・フィンランド |
Rd.10 | 9月5~8日 | アクロポリス・ラリー・ギリシャ |
Rd.11 | 9月26~30日 | ラリー・チリ・ビオビオ |
Rd.12 | 10月31日~11月4日 | セントラル・ヨーロピアン・ラリー |
Rd.13 | 11月21~24日 | ラリージャパン |
年間スケジュールのうち10戦はヨーロッパ諸国での開催。そこにアフリカのケニア、南米のチリ、そして唯一のアジアラウンドとなる日本を加えた全13戦が戦いの舞台となる2024年WRCは、雪やアイスまじりのターマック(舗装路)が舞台となる伝統のラリー・モンテカルロで開幕する。
続く第2戦ラリー・スウェーデンではフルスノー、第3戦は野生動物にも遭遇するサバンナを疾走するサファリ・ラリー・ケニアへと移動していくシーズン序盤を見てもわかるように、WRCでは各ラウンドごとに置かれる環境がガラリと変わることも珍しくない。毎回のように変化するステージ特性、コンディションのなかでつねに安定した成績を出し続けることが、チャンピオン獲得に不可欠だ。
新しいカレンダーの中で新たに追加されたラウンドはふたつ。第7戦ラリー・ポーランドと第8戦ラリー・ラトビアだ。ポーランドは2017年以来、7年ぶりにWRCの一戦に復帰した。一方のラトビアは欧州シリーズのERCヨーロッパ・ラリー選手権で行われていたイベントが、WRCイベントに昇格して念願のカレンダー入りを果たした。
シーズンの最終盤では、今季も“シーズンフィナーレ”としてラリージャパンが開催される予定となっている。日本でのWRC開催は2022年シーズンから本州の愛知・岐阜エリアに舞台を移して以来、年々盛り上がりを増してきており、2024年シーズンの戦いを見守った日本のファンにとっては、その締めくくりを間近に見られる絶好の機会だ。
