WRCに参戦するクルマは、乗用車に比べてあらゆる衝撃に耐えるためシャシーの補強やロールケージの追加、強化サスペンションの搭載がなされ、さらには安定性を高めるエアロパーツを装着するなど、走りの安全性を高めるための改造が各所に施されている。
現在の最高峰カテゴリーであるラリー1クラスは、トヨタ、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードの計3チームが参加しており、各社がメーカーの威信をかけて覇を争っている。この3つのチームは、2022年に導入された車両規定のもとプラグイン・ハイブリッドシステムを搭載したラリー1規定のマシンをシリーズを投入しており、いずれのマシンも今季が3シーズンめとなる。



ラリー1規定は、サステナブルな将来においてもさらにマシンの速さを追求することができるように、2022年シーズンに導入された新規定だ。外部からの充電に対応したプラグイン・ハイブリッドシステムを搭載しており、サービスパーク内やリエゾンの指定区間ではEV走行を行う。さらに燃料には100%非化石燃料を使用している。
ヒョンデ、トヨタ、Mスポーツ・フォードの3メーカーが開発しているラリー1マシンは、最大100kW(約135PS)を出力するハイブリッドシステムと、1.6リットル直列4気筒直噴ターボエンジンが組み合わさってできたパワートレインを搭載しており、4輪駆動で500馬力以上を発揮する性能を持つ。
ハイブリッドカーとなったラリー1マシンは、ブレーキ時にモーターを利用して運動エネルギーを回生し、そこで貯蓄したエネルギーを使って追加のパワーを得ることができる。電気モーターによるエキストラパワーは、アクセルペダルを踏む際に最大135馬力のブーストとして表れるが、その出力は事前に設定した3つのマップに従って解き放たれる。チームはステージの特徴や天候に合わせて、3つのマッピングから出力特性を選択することができ、サービスを出る際にこのうちのひとつを設定する。
このほかラリー1カーの特長としては、スケーリングを導入することでベースとなる市販車のサイズや形状によるパフォーマンスの差を小さくしているほか、チューブラースペースフレーム構造として安全性が大幅に高められている。また、コスト削減の一環から従来規定(WRカー規定)で採用されていたアクティブセンターデフは禁止に。さらにパドルシフトも使用不可となり5速シーケンシャルシフトが用いられている。
タイヤはピレリのワンメイク。ターマックラリーではF1などでもおなじみの『Pゼロ』とウエット用の『チントゥラート』が使用され、グラベルラリーは『スコーピオン』が用いられる。圧雪路を走行するスウェーデンでは鋲付きのスパイクタイヤ『ソットゼロ』が活躍する。ソットゼロにはスタッドレスタイプも用意され、主にモンテカルロで使用される。

WRCについて大まかに紹介した入門編はここまで。次回は、トップカテゴリーに参戦するドライバーや2024年シーズン注目の要素を解説する。
■ラリー1車両諸元例(トヨタGRヤリス・ラリー1)
寸量および重量 | |
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全長/全幅/全高 | 4225mm(空力パーツ込)/1875mm/調整可能 |
トレッド幅 | 調整可能 |
ホイールベース | 2630mm |
最低重量 | 1260kg |
エンジン | |
形式 | 直列4気筒直噴ターボエンジン(およびハイブリッドパワーユニット) |
排気量 | 1600cc |
最高出力 | 500馬力以上 |
最大トルク | 500Nm以上 |
ボア×ストローク | 83.8mm×72.5mm |
エア・リストリクター | 36mm(FIA規定による) |
トランスミッション | |
ギアボックス | 機械式5速シフト |
駆動方式・差動装置 | 4WD、機械式ディファレンシャル×2 |
クラッチ | 焼結ツインプレート・クラッチ |
シャシー/サスペンション | |
フロント/リア | マクファーソン・ストラット |
ダンパーストローク量 | 270mm |
ステアリング | 油圧式ラック&ピニオン |
ブレーキ・システム | グラベル用:300mm、ターマック用:370mm |