ここからは、押さえておきたいレギュレーションの話に移ろう。2023年から24年にかけては、ダミーユニットを搭載したうえでマニュファクチャラー選手権ポイントの対象外となることなどの条件付きで、ハイブリッドシステムを搭載しないラリー1車両の出場が認められるほか、事前の車検からタイムコントロール0(TC0)までの間にトラブルが発生した場合にエンジンが交換可能になり、さらに競技期間中であっても年間使用制限の2基を超えない範囲でエンジンを載せ替えることが可能になるなど、さまざまなルールの変更があった。
そのなかでもとくに注意しておきたいのが、まったく新しいポイントシステムだ。今回採用された新方式は、最高峰のラリー1カテゴリーにおけるドライバー選手権、コドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権というすべてのポイントランキングに関わってくる。そのためシリーズを追いかけるうえでは必ず確認しておきたい。
従来のポイントシステムでは、競技者に対し優勝の25ポイントを最大値として、10位までの入賞者に【25-18-15-12-10-8-6-4-2-1】という配点のもとポイントが与えられていた。これは、競技最終日の最後に行われるステージを経て最終TCを通過した段階の総合順位に基づいていた。
ところが2024年シーズンに導入される新システムは、ポイントを付与する段階がふたつにわかれた。ひとつ目は競技初日から土曜日の最終TCまでの時点、ふたつ目は日曜日の最終コントロール通過後となる。
最初の段階で与えられるポイントは、競技初日から土曜日の最終TCまでの総合順位に基づく。ここでは18ポイントを最大値とし、10位までの競技者に下記表のとおりポイントが付与されるが、ラリー最終日となる日曜日にトラブルやアクシデントが起き、ラリーを完走できなかった場合には、前日までの順位にかかわらず無得点となる。その場合は後続の競技者が繰り上がり、より多くのポイントを得ることになる。
■2024年WRC ポイントシステム
初日から土曜日 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
18 | 15 | 13 | 10 | 8 | 6 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
日曜日のみ | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | |||
7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | ||||
パワーステージ | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |||||
5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
これは裏を返せば、日曜に入賞圏外に落ちようとも、完走さえ果たせば土曜日までのポイントは確保できるということになる。しかし特殊な事例を除いて、そのようなことをする理由はないだろう。なぜなら、日曜日のみの総合順位もポイント加算の対象となるためだ。
日曜日の配点は、上記表のとおり1位に与えられる7ポイントから7位の1ポイントまでの7段階。ただしこれはイベントを通じた総合順位ではなく、日曜日最初のコントロールから、ラリーの最終コントロールまでのタイムで決まる単独順位に基づくものなので誤解なきように。
さらにこれとは別に、最終ステージのトップ5タイムを記録した競技者に、最大5ポイントのボーナスポイントが与えられる“パワーステージ”の制度は維持された。このため、1大会で獲得できる最大ポイントが30ポイントであることも引き継がれている。とはいえ、最終的にトップに立ち、くわえてパワーステージを制することでフルポイントを獲得できた従来式と比べると、新システムでは土曜日までの段階で首位の座につき、そのまま日曜日のみの総合タイムでもトップを維持、そしてパワーステージでも最速タイムが求められることになるため、フルポイントを獲得するのは至難の業となるだろう。
これまでラリーの最終日は、前後のクルマとの大きく差が開いた際、無理なアタックを避けてペースを抑えたり、パワーステージに向けでタイヤを温存する目的でペースを落とすクルマが見られ、状況によっては競技の魅力を欠く場合があった。新たに導入された一見複雑なポイントシステムは、こうした動きを抑止するために取り入れられたものであり、よりエキサイティングな日曜日を実現するための策と言えるだろう。
■ポイント獲得例
1)日曜に失速した場合
初日~土曜1位、日曜5位、パワーステージ6位
18pt+3pt+0pt=21ポイント
2)尻上がりに調子を上げた場合
初日~土曜3位、日曜1位、パワーステージ1位
13pt+7pt+5pt=25ポイント
3)最終日に不運なトラブルに見舞われた場合
初日~土曜2位、日曜リタイア、パワーステージ欠場
0pt(未完走のため15ptは無効)+0pt=0ポイント
4)金曜にクラッシュ、土曜日から再出走した場合
初日~土曜25位、日曜2位、パワーステージ1位
0pt+6pt+5pt=11ポイント

■チャンピオン争いは接戦の予感
そんな新しいポイントシステムの下、2024年のチャンピオンシップを争うことになるであろうレギュラーエントリーのクルーを挙げると、TGR-WRTのエバンス/マーティン組と勝田/ジョンストン組、ヒョンデのヌービル/ウィダグ組とタナク/ヤルヴェオヤ組、Mスポーツのフルモー/コリア組、ミュンスター/ルッカ組の計6ペアとなる。
前述のとおり、現在シリーズ2連覇中のロバンペラがパートタイム参戦を選択したため、6組の中でチャンピオン経験者はヒョンデに移籍したタナク/ヤルヴェオヤ組のみとなった。もちろん、タナクとしては自身2度目の戴冠を狙ってくるはずだが、2023年にシーズン最多タイの3勝を挙げランキング2位となったエバンスや、ふたたびタナクのチームメイトとなる前年3位のヌービルがそれを簡単に許すはずはない。ランキング2位を複数回経験してきた彼らにしてみれば、2024年はもっとも警戒すべき“強敵”が不在のシーズンであり、悲願のドライバーズチャンピオン獲得に向けてこの機を逃すことはできないのだ。
そんなヌービルとエバンスにとって、刷新されたポイントシステムが助けとなるかは分からないが、チャンピオンシップの行方がより面白くなる可能性はある。新システムでは、日曜日単体で獲得できる最大ポイントが、従来の5ポイント(パワーステージのボーナスのみ)から12ポイント(日曜1位+パワーステージ優勝)に増加しているため、土曜日までに後れを取ってしまったクルーが敗者復活のごとく大量ポイントをさらっていくことも考えられる。さらにそれは、直接的でなくとも、各大会でコンスタントに上位を争うクルーが獲得するポイントを減らすことにつながると考えられる。つまり全体のランキングが圧縮される可能性があり、より多くの選手にタイトル獲得のチャンスが生まれることにもなる。

チャンピオン争いと並んで注目したいのが、TOYOTA GAZOO Racing WRTのレギュラードライバーに昇格した勝田の活躍だ。昨年トヨタのワークスドライバーとなった30歳の日本人ラリードライバーは2021年と22年に続き、昨季も表彰台を獲得した。それも北欧出身選手が有利とされる高速グラベルラリーの『ラリー・フィンランド』での3位表彰台獲得となっただけに、国内外から高い評価を集めた。
また2023年の最終戦ラリージャパンでは、大雨に見舞われた序盤のSS2でクラッシュを喫してしまったが、そこから怒涛の追い上げを見せ都合9つのステージで最速タイムを記録(赤旗提示によるノーショナル(救済)タイムが適用されたSS9を含めると計10回)し、表彰台まであと一歩に迫る総合4位まで挽回してみせた。ワークスドライバーとして迎える2年目のシーズンでは、さらなる飛躍と、勝田自身も熱望する初優勝に期待がかかる。
開幕戦のラリー・モンテカルロは、カレンダーの中でも特殊な難コースとして知られており、ゆえにシーズンを占う一戦とは言い難いが、2024年最初の勝者となって新シーズンを引っ張っていくのが誰になるのかは気になるところだ。本命は、モンテカルロ通算9勝を誇る“マスター”ことTGR-WRTのオジエで間違いないだろうが、2022年の大会のように、最終日にパンクを喫してライバルに優勝をさらわれるという展開もありえるため、最終ステージを終える最後の一瞬まで目を離すことはできない。
第92回の開催を数える2024年のラリー・モンテカルロでは、サポートカテゴリーのWRC2でトヨタ初のカスタマーラリーカー、GRヤリス・ラリー2がデビューすることにも注目しておきたい。
1月1日にFIA国際自動車連盟のホモロゲーション(公認)を取得したこの新型マシンは、開幕戦ではサミ・パヤリがドライブする車両など計4台、来月行われる第2戦スウェーデンにはTGR WRCチャレンジプログラム2期生の山本雄紀と小暮ひかるが駆るマシンを含め計7台が登場する予定であり、今後もその数は増えていくものと思われる。WRC2/ラリー2カテゴリーを席巻している王者シュコダに対抗する、シトロエン、ヒョンデ、Mスポーツ・フォードに加わった新たな刺客が今シーズン、どのような攻勢を見せるのか楽しみなところだ。
南仏のギャップを中心に開催されるラリー・モンテカルロでの最初の走行は、24日水曜の16時31分(日本時間25日0時31分)から行われるシェイクダウンとなっている。競技のオープニングとなるSS1は、翌25日木曜20時35分(日本時間26日4時35分)開始予定だ。


