前後メカニカルデフ、センターデフレスというパッケージは、R5(=新しいラリー2)と基本的には変わらず、WRカーにおいてはエンジンが初めて1.6リッター直噴ターボ化された2011年から2016年にかけて、同様のパッケージが採用されていた。シトロエンのラリーカーを例にとると、DS3 WRCの時代である。
しかし、それより一世代前のC4 WRCはセンターデフを備え、初期モデルではアクティブ制御も行なっていた。歴史は繰り返すとはまさにこのことで、性能向上とコスト削減のせめぎ合いのなかで、アクティブセンターデフはつねに議論の対象となってきたのだ。

アクティブセンターデフとパドルシフトを司る油圧システムを排除すれば、たしかに車両全体のコストは下がる。しかし、2017年の現行WRカー規定で復活させたものをなぜまた廃止するのかと言えば、それはハイブリッド化によるコスト増を相殺するためだ。

ハイブリッドシステムはモノメイクとなり、その入札には4社程度が名乗りをあげたと聞く。各社が提案したシステムはそれぞれ異なり、価格面でも大きな差があったようだ。現行WRカーは1台1億円程度と言われているが、ハイブリッドシステムを追加するとなれば、1000〜2000万円程度コストが増えてしまう。
最高値はウイリアムズ・アドバンスト・エンジニリング社の提案だったと言われ、コンパクト・ダイナミクス社は安価なオファーで入札を勝ち獲ったようだ。それでも、何か策を講じなければ、ラリー1がさらに高価になることは必至。駆動系をプリミティブなシステムに戻したのはハイブリッド化を実現するためであり、まさに進化のための後退である。
コンパクト・ダイナミクス社は、以前アウディのWEC世界耐久選手権のLMP1マシンにハイブリッドシステムを提供していたドイツのサプライヤーであり、F1やフォーミュラEにもMGUなどを提供している。
現在はドイツ・シェフラー社の100%子会社であり、そのシェフラー社はWECのポルシェ919ハイブリッドにシステムを提供していた。ラリーとの関係は希薄だが、レーシングハイブリッドに関しては充分な実績とバックボーンがあり、安心感はある。
ただし、サーキットレースとは違い、崖から落ちて何回転もしたり、水没したりする可能性もあるラリーカーで、高圧電気系の安全性がどれくらい担保されているのかは未知数だ。
ハイブリッドシステムがどのような構造になるのかは、まだ公になっていない。システムとしては比較的シンプルなもので、運動エネルギーの回生によるMGU-Kを採用し、モーターは1基。蓄電ユニットはリチウムイオン電池になることは決まっているようだ。
MGUの出力は2019年末の段階で100kW(134hp)とされており、SSとSSをつなぐリエゾン区間を電気エネルギーで走行するだけでなく、SS中にハイブリッドブーストとして放出する可能性についてもFIAは言及していた。その方針は基本的に現在でも変わりなく、サプライヤーが決定したことにより、今後はより具体的な議論がなされるだろう。
エンジンに関しては、各マニュファクチャラーの思惑が複雑に絡み合い、最終決定に時間を要したようだ。