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──え、最初のSSで?

ピエールさん:はい、しかも開始30mで(笑)。ミックスサーフェイスといって、基本はグラベルでありながらも、最初の部分は舗装路だったんです。カウントダウンが終わってスタートして、30m先がヘアピンに近い角度で、登りながら回っていくコーナーだったんですけど、みんなインカットしていたため砂利がすごく出ていたんです。それにいきなり乗ってしまい、アンダーステアを出して曲がりきれず山肌にドン! と。

──サーキットで言えば、スタート直後の1コーナーで「やってもうた」わけですね。

ピエールさん:もう「何やってんだ俺は……」ってなりましたよ。最終的には完走はできたのですが。

 でも、そういうところも含めて、ラリーって先が分からないわけです。サーキットではセッションの合間でオフィシャルさんが清掃してくれますし、オイルフラッグやイエローフラッグも出してくれる。でもラリーでは砂利が撒かれているかもしれないし、落ち葉もあるし、グラベルなら轍の状況が午前中とは違う、とか……とにかくコースの状況が刻一刻と変わっていく。

 それを予見してペースノートを作ったり、運転しながらもその先の状況を素早く察知したり……WRCを見ていると、ペースノートに「メイビー」って言葉が出てくるんですよね。「たぶん、この先滑るよ」みたいなことだと思うんですけど、ものすごく想像力が豊かで、アタマの処理能力が優れていないと、ただ走るのが速いだけでは絶対ダメな世界ですよね。

最初のSSでクラッシュを喫してしまった2021年7月の『四国のてっぺんラリー』
最初のSSでクラッシュを喫してしまった2021年7月の『四国のてっぺんラリー』

──総合的な人間力が試されるようなイメージですね。

ピエールさん:ええ。しかも、どんどん目の前の状況が変わっていくなか、少しでも行きすぎたらアウトなんですよね、エスケープゾーンがないので。突然のシチュエーションに対して、どうリアクションできるか。それの繰り返しをしていって、最後に“答え合わせ”としてのタイム差がある。

 僕なんかは、たとえば1kmあたりトップの選手と5秒違うと、「どこが違うんだろう」「次はどうやって走ろうか」と向上させていくのが面白く感じるんです。サーキットレースで、ライバルとブレーキング競争するのとはまったく別の種類の楽しさなんですよね。

 一方、WRCを戦うトップドライバーなんて、何十km、何百km走ってコンマ差とかじゃないですか。しかもサーキットレースとは違って、事前の下見はレッキだけで、リエゾンを低速で走ってSSスタート地点に着いたら、もういきなり全開なわけです。そこでいきなり100%……実際には99%なんだと思いますが、その領域で走れるっていうのは想像もつかない。メンタルの部分でも相当強いものが必要でしょうし、その状況のなかで「ミスをしない」というだけでもう、とんでもなくすごいことだと思います。

──たしかに、ノーミスで走り切れるだけでもすごいことですよね。さて、秋にはいよいよフォーラムエイト・ラリージャパン2021が待ち構えていますが、ピエールさんはWRCの現地観戦のご経験は?

ピエールさん:北海道でのWRC開催のときは、2年目に行きました。レンタカーを借りて、北海道じゅうを追っかけましたね。仕事? いやいや、単純に個人的な観戦ですよ(笑)。ラリー好きとしては、「これは見ておかないと!」と思いまして、あちこちのギャラリーステージで観戦しました。

 グラベルの雄大さは北海道ならではのものだったと思いますが、今回の愛知・岐阜開催のラリージャパンはターマックということで、普段自分たちが使っているような、片側一車線の普通の道を、とんでもないスピードでかっ飛んでいくわけですよね? その“違和感”を、実際に早く体感してみたいですね。世界レベルの“凄さ”を日本の道を舞台に見られると思うと、もうワクワクしかないです。

──どうもありがとうございました。

●ラリージャパン公式ホームページ:https://rally-japan.jp/

<プロフィール>
ぴえーる・きたがわ:1970年6月2日生まれ、三重県出身。SUPER GTシリーズ、全日本スーパーフォーミュラ選手権でオフィシャルアナウンサーを務めるほか、鈴鹿サーキットのオフィシャルアナウンサーとしてF1や8耐などでもマイクを握る。軽妙かつ“愛”のある語り口で、日本のサーキットには欠かせない存在に。

『刻一刻と変わる目の前の状況にリアクションする』という面では、ラリーのドライビングとサーキット実況には共通点もあるという
『刻一刻と変わる目の前の状況にリアクションする』という面では、ラリーのドライビングとサーキット実況には共通点もあるという

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