一方、エバンスは初日の午後にヌービルがいきなり速くなったことを警戒し、路面がダーティな午後のステージでのハンドリングを何とか向上させようと、2日目に向けてセッティングを大きく変更。
グラベル対策という点ではたしかに効果も見られたが、副作用としてクルマ全体のいいバランスが崩れ、むしろ自信を持ってアタックすることができなくなってしまった。その結果、2番手タイムを刻むことすら難しくなり、首位ヌービルとの差はどんどんと広がっていった。
エバンスにとって救いだったのは、24ポイント差で選手権をリードするオジエのペースがエバンス以上に上がらなかったことだ。オジエは初日、ヌービルにもエバンスにもついていけず、総合3番手につけるのがやっとだった。
土曜日にはセットアップを大きく変更して臨んだところ、午後のステージでは2本のベストタイムを記録するなど、改善に成功。「ようやくいいセットップを見つけることができた。これなら最終日は行ける」と意気込んでいたが、直後の市街地ステージでまさかのエンスト。これは完全にドライバーのミスだったようだが、そこで大きくタイムを失い、最終日は総合3位の座までヒュンダイのダニ・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)に奪われてしまった。
ここ数戦、オジエはライバルに純粋な速さで負けている。それは有利な出走順の今回も同様だった。タイトルを最優先した保守的なアプローチによる部分もあるだろうが、じつは今回のエンストのようなミスや不注意も今年はかなり多い。
最終戦『ラリー・モンツァ』を前に、選手権2位のエバンスには17ポイントのリードを持っているが、最後まで集中力をしっかり保たなければ逆転で通算8度目のタイトルを逃すことも考えられる。そう、昨年エバンスがオジエに対する14ポイント差の選手権リードをワンミスで失い、涙を飲んだように。



※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1563(2021年10月29日発売号)からの転載です。