これで精神的にもひと回り成長し、WRCトップカテゴリーに”リベンジ”を果たしたエバンスは、2017年はDMACKタイヤを装着した3台目の新型『フォード・フィエスタWRC』のシートを得て、WRCデビュー前から「お手本のような存在だった」というセバスチャン・オジエや、オット・タナクの僚友として戦線復帰する。
得意のアルゼンチンではタイヤ性能もマッチし、マシントラブルが発生する最終SSまで首位を快走。そして地元イギリスではラリーGBを制覇し、待望のWRC初優勝を達成する。
2018年を経て、オジエが離脱した2019年にはフォードのエースに成長し、第4戦コルシカでは最終ステージでフロントタイヤをパンクするまで圧巻のスピードでラリーを支配。しかし選手権賞典外のラリー・エストニアに出場した際、ジャンプの着地で背中を痛め、後半3戦の欠場を余儀なくされるなど、このアクシデントが長年在籍したフォードを離れる遠因にもなった。
そして2020年。TOYOTA GAZOO Racing WRTへの加入がキャリア飛躍の決定的な要素となり、加入2戦目のスウェーデンで移籍後初勝利を挙げると、続く第5戦トルコでもキャリア3勝目をマーク。この初年度は新型コロナウイルス(COVID-19)感染症にも翻弄され、変則的スケジュールを強いられるなか全戦でポイントを獲得する。
迎えた最終戦モンツァでは、トヨタ同時加入でふたたび僚友になったオジエとタイトルを賭けて最終日まで争うと、雪が降り積もるデイ3のSS13でコースオフを喫し終戦。しかし続く2021年も第4戦ポルトガル、第10戦フィンランドで勝利を飾り、4回の2位を含む熾烈なポイント争いを繰り広げ、ふたたび決着の地となった最終戦モンツァでは、またも初日からオジェと激しい優勝争いを展開する。
しかし残り2本となったSS15で2度のエンジンストールを喫し、追撃及ばず。「優勝を目指していたから複雑な心境だ。でも、セブとジュリアン(・イングラシア)がタイトルを獲得したことは祝福したい。ドライブを楽しませてくれたヤリスWRCには惜別の思いで感謝の念を贈りたい」と、エバンスにとっては2年連続で“憧れの王者”に挑んだ最終戦となった。
今季はチーム内の後輩カッレ・ロバンペラの躍進で影が薄くなった感があるも、新規定ラリー1車両の特性を習得し、中盤以降は4度の2位表彰台を獲得。かつてトヨタでも活躍したフランス出身の“ターマック・マイスター”ことディディエ・オリオールを彷彿とさせるアップライトなシートポジションでステアリングを抱え、イギリス出身ドライバーの“ツネ”で思い切りの良い荷重移動から豪快なドリフトに持ち込むエバンス。オンボード映像でおなじみSSアタック中の“あの表情”も、ラリージャパンのコースサイドで目撃できるかもしれない。


