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 マニュファクチャラーとしてWRCでの将来設計が描けず、一時は参戦継続自体が危ぶまれたチーム内情を反映し、ライバルより開発進行が大幅に遅れた新規定マシンだが、これまで蓄積されてきたWRカーの系譜を断ち切り、ある意味で“アダモの置き土産”と言えるロリオーの設計思想を色濃く反映した車両に生まれ変わった。

 ベース車も従来のクーペではなく第3世代となる『ヒョンデi20 N』とした上で、前回のフォード・プーマ・ラリー1同様に車体には鋼管パイプフレームを選択。共通ハイブリッドの搭載やシーケンシャルシフト化、センターデフの廃止など新規定への対応を施しつつ、1.6リッター直列4気筒直噴ターボの“GRE”もキャリーオーバーされ、従来より出力面では定評のあったエンジン単体で公称380PS/450Nmを発生。システム総合で500PS以上/630Nm以上を絞り出す。

 そのボディワーク上の特徴となるのがリヤに搭載された共通ハイブリッド機構の冷却面の設計で、ドアからフェンダー部に掛けて開口部を設けるライバル勢とは異なり、冷却ダクトをサイドウインドウからCピラーにかけての相対的に高い位置に設けている。と同時に、こちらも競合車両ではリヤバンパー部にある電動ファンを外部からは視認できないレイアウトとし、その排出口も最小化した。

 内部の流路には熱交換器とファンが仕込まれているはずだが、こうした冷却系の重量物をオーバーハングとなるバンパー部へ搭載せず、なるべく車両中央部に寄せて運動性能への影響を最小限に留めようとする意図も感じられる。

 またサスペンション構成も“ロリオー・イズム”が反映され、従来のWRカーではトップマウントからアップライト接続側まで直立配置だったダンパー・レイアウトは、フロント側で後傾、リヤ側で前傾させたうえで、車軸センターから前後オフセット位置に接続するなど大きなキャスター角を持たせる構成とした。

 このラリー1規程では最大ストローク量が270mmに規制(従来より短縮)されるうえ、ダンパーの摺動抵抗の面でもデメリットがある方式だが、それよりもフォード時代からノウハウを蓄積してきたロリオー自身のジオメトリー哲学を優先するデザインとなっている。

 こうした突貫工事と哲学変更の影響もあってか、開幕当初から主に信頼性の面でビハインドを抱えたスタートとなり、序盤戦はトラブルやハイブリッド関連の問題も頻発。しかし中盤以降は持ち直し、第5戦イタリア・サルディニアで初勝利を挙げると、ライバルの脱落にも助けられフィンランド、ベルギー、そしてアクロポリス(史上初のポディウム独占)と3連勝を飾ることに。

 とくに後半ターマック戦のベルギー・イープルではタナクが勝利し、スペイン・カタルーニャでもティエリー・ヌービルが2位に入っているだけに、舗装路のラリージャパンでは来季に繋がる速さが見せられるだろうか。

従来より出力面では定評のあったエンジン単体で公称380PS/450Nmを発生。システム総合で500PS以上/630Nm以上を絞り出す
従来より出力面では定評のあったエンジン単体で公称380PS/450Nmを発生。システム総合で500PS以上/630Nm以上を絞り出す
サスペンション構成も“ロリオー・イズム”が反映され、従来のWRカー時代とは異なり前後ダンパーを傾斜配置としている
サスペンション構成も“ロリオー・イズム”が反映され、従来のWRカー時代とは異なり前後ダンパーを傾斜配置としている
ツイスティな舗装路ステージが続くラリージャパンでは、来季に繋がる速さが見せられるだろうか
ツイスティな舗装路ステージが続くラリージャパンでは、来季に繋がる速さが見せられるだろうか

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