まずマシン、つまりヤリスWRCに関しては、チームがマキネン体制となって以降、彼が考える理想的なマシンを形づくるための開発作業が徹底された。
マキネンの理想とは、いかなる状況でも完全にドライバーのコントロール下に置けるマシンであること。ハンドリング、重量バランス、そしてエンジンのドライバビリティにマキネンは徹底的にこだわり、開発の過程では自らがテストでステアリングを握って方向性を確かめたほどだ。

現役を離れて久しいマキネンがテストを行なったことに関しては、批判の声も聞かれたのは確かである。しかしマキネンは自分の信念を貫き、そして結果的に自分とドライビングのベクトルが似ているフィンランド人選手を起用することで、進むべき方向性を明確にした。
マシンの開発に関しては、フィンランドの片田舎に各界で活躍していたエンジニアが集められた。トップWRCチームで働いていた者もいれば、モータースポーツとは無関係な分野で仕事をしていた者もいるなど、顔ぶれは多種多様。

しかしマキネンは、そういった異分野の人材が集まることによるシナジー効果を期待して、あえて広い分野から人材を募ったという。
そして、開発過程においては透明性とコミュニケーションを重視し、垣根のないオープンな環境で作業が進められた。
その結果、チーム内の結束力は自然と高まり、各部門間の情報交換スピードも向上したようだ。他のマニュファクチャラーと比べれば小規模ながら、個々のスタッフの関係はより濃密となり、開発速度は非常に速かったと開発担当エンジニアは述べる。
■導入直後から高い信頼性のエンジン

エンジンに関しては、ドイツのTMGが長年の経験に基づいた力強いパワーユニットを完成させた。ただ単にパワフルなだけでなく、軽量化や重量バランスにも徹底的にこだわり、フリクションも最低限に抑える努力が徹底された。
その結果、最初から非常にパワフルなエンジンに仕上がったことがスウェーデンでの結果でも証明されたが、それだけでなく信頼性も十分に高かったことにも注目したい。
モンテカルロではセンサー類のトラブルが発生したが、それは致命傷ではなく勝負に大打撃を与える類いのものではなかった。
ミスファイヤなどで大きくタイムロスをしたライバルも少なくないなかで、TMGのエンジンが最初から高い信頼性とパフォーマンスを発揮したことは称賛すべきこと。現時点でエンジンの仕上がりと、スノーロードで自然な挙動を示したハンドリングは、ヤリスWRCの大きなアドバンテージだといえる。