更新日: 2016.05.31 23:06
【大谷達也コラム】自動車メーカー×モータースポーツ、変わりゆく役割と“変革”
その関わり方やカテゴリーは千差万別だが、モータースポーツに参画している自動車メーカーは世界中に数多い。おかげで、いまやほとんどのモータースポーツ・イベントが自動車メーカーの存在なしには成り立たないといっても過言ではない状況にある。
しかし、モータースポーツの世界で自動車メーカーが演じている役割は時代の流れとともに大きく変化している。自動車メーカーはモータースポーツに何を求めて、どのような変遷を重ねてきたのか? 自動車メーカーとモータースポーツの関係について、いま一度振り返ってみたい。
◆自動車メーカーとモータースポーツの歴史
自動車メーカーがモータースポーツに関わるようになったのは、自動車が発明された100年以上昔に遡ることができる。メルセデスベンツのブランドで知られる自動車メーカーのダイムラーは、世界で初めて開催されたモータースポーツ・イベントとされる1894年のパリ-ルーアンにエンジンを供給したほか、アウディの創業者であるアウグスト・ホルヒは自ら自社製品を駆って1906年開催のヘルコーメル・ランという国際的イベントに出走し、いずれのケースもモータースポーツでの成功が自動車の販売に大きく影響したとされる。
つまり、自動車の信頼性や実用性が確立されたとは言いがたかった当時、モータースポーツでの成功は自動車という製品のセールス拡大に直結していたのである。
そうした流れは半世紀以上が過ぎても変わらず、1960年代のアメリカでは「日曜日に(レースで)勝って月曜日に(自動車を)売る」という有名な言葉が生まれた。このフレーズはフォード創業家のヘンリー・フォードⅡが語ったものと信じられてきたが、実際にはドラッグレースに参戦する傍らフォード・ディーラーを営んでいたボブ・タスカが考え出したスローガンだったらしい。
極論すれば、自分たちのブランドを掲げた自動車がイベントに参加し、そこで何らかの栄冠を勝ち取ればそれで目的は達成したと見なされたのが、自動車メーカーにとって最初期のモータースポーツ活動だったといえる。
◆訪れた変革
これ以降も自動車メーカーは様々な形でモータースポーツに取り組んでいったが、その後の関わり方に大きな影響を与えたのがアウディによる世界ラリー選手権(WRC)参戦だった。当時はまだオフロード用の技術だと信じられていた4WDをオンロードモデルのアウディ・クワトロに搭載した彼らは、その優秀性を証明するために1981年からWRCに挑戦。その後の4年間で4つのワールドタイトルを勝ち取るとともに、「4WDでなければラリーに勝てない」という現代にまで続く常識を作り上げたのである。
私はこのアウディ・クワトロのWRC参戦を、自動車メーカーによるモータースポーツ参画の「第1の変革」と位置づけている。